研究課題/領域番号 |
15K07509
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
川合 伸也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90202027)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リグニン / LCC結合解裂 / 形質転換植物 / バイオエタノール |
研究実績の概要 |
・白色腐朽菌であるCoprinopsis cinereaから細胞外分泌炭水化物エステラーゼCcEST1とアラビノフラノシダーゼCcAbf62Aはヘミセルロースとリグニンの複合体であるLCCを間裂できる酵素である。それらの酵素を発現している植物はLCCの結合が緩み、脱リグニンしやすくなると考えられる。そこでCcEST1とCcAbf62Aを発現するイネとタバコ双方の形質転換体を多数得た。それらを研究室内および隔離温室内で順化した。フェルロイルエステラーゼであるCcEST1を発現しているタバコとイネの形質転換植物では形態的な変化が見られなかったが、アラビノフラノシダーゼであるCcAbf62Aを発現している形質転換イネでは一部の個体において著しい矮化と多芽体形成が見られた。このことは単子葉植物であるイネのヘミセルロースがアラビノキシランを多く含むことと関連性がうかがわれた。 ・形質転換体のPCRとRT-PCR解析を行った。CcAbf62Aの発現量と形質転換イネの矮化には関連性があった。 ・CcEST1とCcAbf62Aの細胞内外での局在性の確認を行った。両方のcDNAの5’末端には交雑ヤマナラシのペルオキシダーゼ由来の細胞外分泌シグナル配列に相当する塩基配列を付加している。更に蛍光タンパク質との融合タンパク質を一過性の遺伝子発現系を用い、植物細胞中で発現させて共焦点レーザー顕微鏡で細胞外に分泌されていることを確認した。 ・野生型植物体と一部のコントロールの形質転換植物を用いて、リグニン化学分析や染色法の予備実験を行った。その他、モイレ染色やフロログルシノール塩酸反応などをそれぞれの野生型と形質転換植物に対して行い、顕微鏡観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イネの形質転換体の作製に手間取ったためである。今まで用いたイネの形質転換法で急に再分化効率が急減したため、いろいろ条件検討を行った。植物ホルモン等の更新や農業生物資源研究所に新しい形質転換法を習いに行った。その結果、多数のイネの形質転換体を得ることができるようになり、予定より3ヶ月の進捗の遅れですんだ。
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今後の研究の推進方策 |
・カッパー価と糖化性試験の予備実験を、野生型植物体を用いて行うと共に、LCC中におけるリグニンとの結合頻度の測定。 ・前年度に得られたタバコ形質転換植物の中から選んだ系統の種子とイネに関しては現在成育中の形質転換体から得られる種子を、バイオトロンと隔離温室中で生育させて経時的に一部サンプリングしながら生育させる。 ・形質転換植物のリグニン組成や含量を化学分析や染色法にて確認する。クラソン・リグニンの定量、酸可溶性リグニンの定量、スペクトル法やアセチルブロミド法による定量、ニトロベンゼン酸化法による解析、ガスクロマトグラフィーによるシリンギル:グアイアシル比(S/G)などの解析を行う。また、モイレ染色法、フロログルシン塩酸染色法などの染色法によってシリンギル・リグニンの組織内分布を顕微鏡観察によって比較する。また、カッパー価などを測定して脱リグニンの程度の変化を調べる。 ・形質転換植物の糖化性の変化を調べる。また、導入した酵素の活性を測定し、その強弱と化学的組成や糖化性との相関性を調べる。形質転換植物の中から優秀な系統を選択して、隔離温室中である程度の規模で栽培する。CADやCCRの発現を抑制した形質転換イネと交配して種子を得る。タバコに関しては除雄法により、イネに関しては開花前の穂の温熱処理によって行う予定である。CADやCCRの発現を抑制した形質転換イネと交配して得られた植物体におけるLCC結合の減少とリグニン組成や量の変化によるシナジー効果を調べる。 ・糖化性や飼料消化性について中スケールで調べる。飼料消化性についてはin vitro dry matter digestibility (IVDMD)によって評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最大の理由は、高速液体クロマトグラフィーのカラムの半額キャンペーンが行われる情報を得たために購入を遅らせたことによる。また、イネの形質転換体が得られるのが遅れたため、試料の解析を行うための旅費と消耗品費が浮いたことも関係している。
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次年度使用額の使用計画 |
一部研究に遅れが生じたが次年度中に遅れを取り戻せる予定なので、そのため本年度未使用分の旅費の分が増え、またアラビノフラノシダーゼの発現によりイネが矮化するという減少を解析するために植物ホルモンや遺伝子発現の変化を確認するための費用を本年度使い残した分でまかなうと共に、次年度分は本来の予定に合わせて使用する。
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