リグニン化学構造解析の歴史は長いが、未だ決着を見ない。本研究では、近年その分解能および検出感度の進展著しいNMR 分光法ならびに質量分析法を用いてリグニンに関する情報を最大限に引き出すため、13C 標識法を用いる。これまでの報告で分析を困難にしていた標識率不足や12C化合物と13C 化合物との混在問題を解決するため、13C 二酸化炭素の長期投与による新生木部の全13C 化を行う。各種の最新分析技術を駆使してリグニン化学構造ならびにその形成過程に迫る。 最終年度では、前年度までに確立された密閉型グロースチャンバーを用いた樹木育成手法に13CO2を用いて実験を行った。結果より、得られたイチョウ試料を用いて各種分析用試料を調製し、分析に供した。具体的には、まず各種光学顕微鏡を用いた組織観察を行い、樹木成長状態を観察した。結果に基づいて当年度成長部分に相当する木部を外側と内側に分けつつ分取し、それぞれの試料についてチオアシドリシス分析により基礎的なリグニン化学構造に関する分析ならびに質量分析により同位体比の調査を行った。詳細な同位体比分析の結果、高濃度に13Cを有する細胞壁が形成されていることが明らかとなった。得られた試料に各種微細化処理を施した後、固体13C CP/MAS NMRおよび液体NMR分析を行った。結果より超高感度での13Cシグナルを検出した。複雑な多次元NMRスペクトルの解析結果より、リグニン化学構造に関する詳細な知見が得られた。今後、得られた成果について学会発表・国際誌へ投稿予定である。
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