木材の諸性質は,遺伝による先天的な要因と,生育立地や森林施業の違い等による後天的な要因によって変動する。これまで先天的要因による木材性質変動については,遺伝率等のパラメータ推定が行われるなど定量的な評価が進んでいる。しかし,後天的要因による変動については定性的な議論が多く,定量的に評価した事例は極めて少ない。また,生育環境の諸条件として,気温,降水量,日照量等,様々な要因が考えられるが,なかでも土壌水分環境が最も木材性質変動に強く影響を及ぼすという報告事例が多い。 以上の背景をふまえ,本研究では,後天的要因として土壌水分環境に絞り,その木材性質変動に与える影響を,数理統計モデルを適用し定量的に評価することを目的とした。研究の対象とした樹種は,針葉樹ではスギおよびヒノキ,広葉樹では環孔材樹種としてケヤキ,散孔材樹種としてトチノキを選んだ。 鳥取大学農学部蒜山教育研究林において,土壌水分環境の顕著な違いが見込まれる谷部および尾根部に試験プロットを設定し,両プロットからそれぞれサンプル木を得た。木材性質については,生材含水率,密度およびヤング係数を対象としデータを収集した。 生育時の土壌水分環境の違いは,いずれの樹種についても,特に初期成長段階で強く影響を及ぼす傾向が認められた。例えば,ヒノキにおける容積密度数の変動は,両プロットとも樹齢に伴い減少しほぼ同程度の収束値を示すが,若齢時では谷プロットの方が尾根プロットよりも有意に高くなることが定量的にも確認された。ケヤキとトチノキにおいては,土壌水分の影響は必ずしも明瞭ではなかったが,ケヤキの生材含水率は土壌水分が豊富な谷部で高く,トチノキの容積密度数は成長過程で土壌水分の影響が異なることが示唆された。 本研究で得られた成果を,既存の成長予測モデルと組合せることによって,量・質ともに視野にいれた新たな森林資源管理の実現につなげる予定である。
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