研究実績の概要 |
平成27 年度においては,主に,アルコール生産の鍵酵素となる,①ピルビン酸脱炭酸酵素,②アルコール脱水素酵素,③アルデヒド脱水素酵素の各遺伝子の同定とその発現解析を行うことで,「きのこは,なぜアルコール発酵できないのか?」 という疑問に対する回答を得ることにした.まず,本研究では,ナメコでの2 つのアルコール脱水素酵素(Adh),8 つのアルデヒド脱水素酵素(Aldh)と2 つのマンニトール-1- リン酸脱水素酵素(Mpd)遺伝子の発現を分析した結果,Aldh1, 2, 3, Adh1, 2,及びMpd1,2 の転写は,1 mMのエタノールの存在下の液体培養において全く影響を受けなかった.しかし,Mpd1 の発現はアセトアルデヒドで促進されたことから,したがって,Mpd1 は,エタノール生産のためのアルコール脱水素酵素の候補である.また,ピルビン酸脱水素酵素(PDC)遺伝子は,弱いながら常に発現していた.以上のことから,ナメコをアルコール発酵できるように改変していくためには,主にアルコール脱水素酵素の発現量と基質特異性の違い及びピルビン酸脱水素酵素の発現量の少なさにあることと推察された.一方,Aldh1 とAdh2 の転写は,3 mMのベラトリルアルコールの存在で促進された.したがって,Aldh1 とAdh2 の役割は,エタノール代謝から,芳香族化合物の分解に進化した可能性があると考えられた.さらに,Adh1,Mpd1,Mpd2 とAldh1 の転写は菌糸より原基および子実体で高かった.この現象はAdh1,Mpd1,Mpd2 とAldh1 の応答は子実体形成中に酸化ストレスが存在することを示唆していた.以上の結果は,アルデヒド脱水素酵素が,エタノール分解に関与しないことを示唆しており,分解活性はエタノール蓄積に影響していないことが推察された.
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