研究課題
本年度は,最終年度において遺伝子組換えきのこを作出するために使用するプロモーターを選択するために,主にデンプン分解酵素系の遺伝子発現を同定し,それらの遺伝子発現について解析した.ナメコ(Pholiota microspora)の核ゲノム中より,1つのα-グルコシダーゼ遺伝子(PnGcs),3つのα-アミラーゼ遺伝子(PnAmy1,PnAmy2及びPnAmy3),2つのグルコアミラーゼ遺伝子(PnGlu1及びPnGlu2)を見出し,菌糸体で高発現する遺伝子の探索を行うため,合計6つのデンプン分解系の遺伝子の菌糸体及び子実体での発現を解析した.その結果,PnAmy1とPnAmy2,PnGlu2,PnGcsは子実体形成と密接に相関しており,子実体組織中で高発現していた.このことにより,これらの4つの遺伝子は,デンプンから子実体形成時に必要なβ-グルカンを合成するための基質であるグルコースを供給するために高発現しているものと推察された.一方,PnGlu1及びPnAmy3については,菌糸体特異的に発現していた.また,PnGcs,PnAmy1,PnAmy3及びPnGlu1は,デンプンにより誘導される傾向が見られ,特に,PnAmy3及びPnGlu1は,培地中のデンプンを分解し,利用するための遺伝子であると考えられた.このことは,これらのプロモーターを制御するために,デンプンの有無の制御が有効であるという,重要な知見を与えるものと考えられる.今後,本研究の目的を達成するためには,PnGlu1及びPnAmy3の二つの遺伝子のプロモーターを使って,外来のアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子等を高発現させることが有効ではないかと示唆された.
4: 遅れている
オイディアや担子胞子に紫外線照射し,エタノールを産生する菌株の選抜を試みたが,有望な菌株を得ることが出来なかった.以上の結果は,ナメコの場合,一遺伝子の欠損や変異のみでは,達成しえないことを暗示していると思われる.そこで,遺伝子組換え等の分子育種技術が,必要になると思われる.
初年度の研究において,ナメコ(Pholiota microspora)由来のアルコールデヒドロゲナーゼ等は,アルコール代謝よりもむしろ,リグニン分解に基質特異性がシフトしていることが示唆されたことより,来年度は,計画を変更し,酵母(Saccharomyces cerevisiae)のアルコールデヒドロゲナーゼ及びピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子のナメコへの導入を試みる計画である.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件)
Mycoscience
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