研究課題/領域番号 |
15K07515
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉原 浩 島根大学, 総合理工学研究科, 教授 (30210751)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 破壊力学 / 特性評価 / 木材 / 木質材料 / 構造用材料 |
研究実績の概要 |
近年,大型の構造物に木質系複合材料を利用する機会が非常に増えてきたが,木質系複合材料を使用した構造物の安全性を保証するためにもその力学特性を適切に評価することは重要で,その中でも木質系複合材料の破壊力学特性を適切に評価することが特に重要である。そこで本研究では,構造用木質系複合材料の破壊力学特性にについて詳細に検討し,その力学特性値を適切に評価できる試験法および試験条件の確立を目指すこととした。また,破壊力学特性に大きく影響を与える弾性特性についても検討を加えることとした。本年度は以下の点について市販の木材素材および中密度繊維板(MDF)を使用して検討し,十分な成果を得ることができた。また,以上の構造用木質系複合材料に加え,代表的な木質材料のひとつである紙についても破壊力学特性について検討し,十分な成果を得ることができた。 (1) 片側切欠きばりの4点曲げ(4SENB)試験から木材素材およびMDFのモードIにおける破壊じん性値を測定し,試験方法の妥当性について検討した。その結果,従来より多く実施されている3SENB試験よりも優れた方法であることが示された。 (2) MDFに鍵型のノッチを切って4点曲げ試験を行い,その強度特性をpoint stress criterionおよび線形破壊力学によって解析した。異方性の大きい木材素材ではノッチの方向が木材繊維と直交している場合はpoint stress criterionで,木材繊維方向と一致している場合は線形破壊力学によって適切に予測できたが,異方性が小さいMDFではいずれの理論で予測された強度特性も実験結果とよく一致していた。 (3) 市販のコピー用紙に様々な長さの切欠きを導入し,破壊じん性値(JIc値)を測定した。その結果,木材や中密度繊維板と同様き裂長さを補正することによって適切にJIc値を評価することができることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は市販の木材,合板,中密度繊維板および単板積層材を使用し,試験体形状や試験方法を様々に変えて破壊じん性試験などの力学試験を行うことでこれらの材料の破壊力学特性評価を実施することを予定していた。これらの材料に加え,紙の破壊力学特性についても検討を試みた。また,中密度繊維板については破壊力学特性のみならず,鈍いき裂が存在する場合の強度特性についても検討を試みた。その結果, (1) 木材素材および中密度繊維板の開口モードの破壊力学特性について,片側切欠きばりの4点曲げ試験(4SENB試験)が優れた方法であることを示すことができた。 (2) 紙の開口モードにおける破壊じん性値の評価には,木材や中密度繊維板と同様にき裂長さの補正が有効であることがわかった。 (3) 中密度繊維板に鈍いき裂を導入した場合,その強度特性の解析にpoint stress criterionおよび線形破壊力学の理論がいずれも有効であることがわかった。 (4) 木材素材を擬して製造された構造用合成木材の縦振動試験およびたわみ振動試験を行い,ヤング率とせん断弾性係数の測定を試みた。その結果,これらの弾性定数を適切に測定するには試験体の長さをはりせいの10倍程度にすればよいことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
構造用木質系複合材料の力学特性をより精緻に解明するためには,原材料の力学特性を正確に把握した上で破壊力学特性を評価することが不可欠である。したがって,原材料の力学特性をあらかじめ測定した後に木質系複合材料を製造し,原材料から予測される複合材料の破壊力学特性と実際に製造された複合材料の破壊力学特性を比較することが必要である。これらの破壊力学特性については,複合則や積層理論などの単純な理論解析のみならず,有限要素法解析を併用して解明することを予定している。また,木質系複合材料を実用的に使用する場合,単純な応力状態におかれることはほとんどなく,複雑な応力場で使用されることがほとんどである。そこで,さまざまな混合モード破壊じん性試験を行う予定である。以上,単一モードで得られた結果と併せ,構造用木質系複合材料の破壊力学特性評価法の確立を目指す。また,破壊力学特性に及ぼす寸法効果についても検討を加える予定である。 また,実用的な場面で構造用木質系複合材料を使用する際には,接合部や隅角部のような鈍い欠陥に応力集中が発生することが常態化し,このような鈍い欠陥での応力集中が破壊の原因となることが多い。したがって,今後はこうした鈍い欠陥を持つ材料の強度特性の解明が今後の大きな課題となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
原材料から複合材料を製造して試験するという計画は,当初今年度に実施する予定であったが,木質系複合材料の力学特性評価に関する評価方法の検討例があまり多くなかったため,今年度は市販の木材素材と木質系複合材料を使用し,多数の評価項目を掲げて検討した。また,鈍い欠陥を持つ木質系材料の強度特性については理論的な検討例が極めて少なかったため,今年度の研究に採用した。こうした背景から,構造用木質系複合材料の製造に必要な原材料の費用,製造された木質系複合材料の力学特性評価に必要な消耗品および謝金等を翌年度以降に使用することとなった。また,旅費や学会参加費も当初の予定よりも少なかった。以上のことにより次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
まず,木材素材の弾性特性および強度特性を明らかにした後,これらの木材素材を使用して同様の構造用木質系複合材料を製造する。複合材料の製造に際しては,同樹種および異樹種の複合化や使用する接着剤および積層構成などの製造条件を様々に変える予定である。こうして製造された構造用木質系複合材料を用いて,市販の木質系複合材料と同様に単一モードにおける破壊力学特性を評価する。原材料の破壊力学特性から複合材料の破壊力学特性を複合則や積層理論および有限要素法解析から予測して実際に製造された複合材料の破壊力学特性と比較し,差異の生じる原因について検討する。また,さまざまな寸法や形状で複合材料を加工し,破壊力学特性に及ぼす影響について検討する。さらに,上述した構造用木質系複合材料に鈍い欠陥を導入し,欠陥の形状や大きさの強度特性に及ぼす影響についても検討する予定である。
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