| 研究課題/領域番号 |
15K07519
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| 研究機関 | 国立研究開発法人森林総合研究所 |
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研究代表者 |
河村 文郎 国立研究開発法人森林総合研究所, 森林資源化学研究領域, 主任研究員 (80353655)
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| 研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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| キーワード | スギ心材 / ノルリグナン類 / 食品成分 / 保存 / エージング / 生成物 |
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| 研究実績の概要 |
樽酒中にはスギ心材成分と日本酒由来の成分が共存するため、保存等(エージング)の過程でそれらが互いに反応し、新たな生成物の発生や組成の変化が起こる可能性がある。本研究では、日本酒（樽酒）等の食品の熟成や保存におけるスギ材由来成分と食品由来成分の共存による反応生成物を解明することを目的とした。15％エタノール水溶液を使用したモデル溶液のエージング実験によってスギ心材主要ノルリグナンの一つであるセキリン-Cに対する５種の食品(日本酒)成分の共存の影響を調べた結果、２種のアミノ酸では共存の影響があり、特にD-アラニン共存の影響が顕著であった。D-アラニン共存による生成物は昨年度に報告したL-アラニンの結果とは大きく組成が異なり、L-体の反応では全く生じない生成物も複数確認された。また、セキリン-CとL-アラニン溶液のエージングにおいて、反応速度は酸素量濃度の増加に伴って速くなることが分かった。セキリン-C標品を酸処理して調製したヒドロキシスギレジノールの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った結果、本成分はエージングしたモデル溶液中においては限られた期間に極微量のみ確認された。モデル溶液のエージングをL-アラニン濃度、セキリン-C濃度、容器内の酸素濃度、日数を変えて実験し、生成物の濃度が高くなる条件を決定した。さらに、酸化防止剤添加の効果を調べ、これらの条件に従って得られた反応液の分取HPLCを行い、最も多く生じた生成物を分取した。分取直後の溶離液は、ほぼ単一のピークを示した。しかしながら、乾固後、溶媒に再溶解させてHPLC分析を行った結果、目的の生成物は著しく減少しており、分取前のエージング溶液に存在する複数の生成物が生じていた。以上の結果から、今回分取した生成物は、分取後には純度を保つことができない不安定な物質であり、多様な生成物が生じる際の中間体であると推定した。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、スギ心材から単離したセキリン-CとL-アラニンを組み合わせることによって成分共存によって新たに生じるピーク（生成物）を複数特定した。当年度は、以下の５点について研究を行った。①新たに５種の食品成分とセキリン-Cをそれぞれ組合せ、D-アラニン共存の影響が顕著であることを明らかにし、対掌体のL-アラニンの結果とは大きく異なる興味深い結果を得た。②モデル溶液は弱酸性であるため、エージングによってセキリン-Cからヒドロキシスギレジノールが生成する可能性があったが、ほとんど生成しないことを確認できた。③エージングにおける酸素濃度（溶液サンプル気相率）の影響を明らかにした。④生成物を分取するためのエージングやHPLC等の条件設定を行った。⑤決定した最適条件にて生成物の分取を行った。このように、年度内に計画していた実験は全て遂行し、さらに、計画には挙げていなかった実験も行い、有用な結果を得ることができたため、研究全体における進捗状況としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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| 今後の研究の推進方策 |
次年度は、①エージングによる生成物の部分構造の推定、②実際の樽酒にされる各成分の濃度でのエージング実験、及び③安定と予想される生成物の単離、構造決定を行う。
①セキリン-CとL-アラニンのモデル溶液をエージングした後、分取HPLC等の手法によってセキリン-C及びL-アラニンを除去し、生成物を得る。この生成物について核磁気共鳴分光法(NMR)等の機器分析を行い、どのような部分構造を有するか推定する。
②実際の樽酒に含有されるセキリン-C及びL-アラニンの濃度に調製したモデル溶液にてエージングを行う。エージングした溶液のHPLC分析等を行い、これまで特定した生成物が検出できるかどうか確認する。また、市販の日本酒を使用し、L-アラニンは加えず(日本酒に元々含有されているL-アラニンとの反応を調べる)、セキリン-Cのみを加え、同様の実験を行い、生成の有無を確認する。
③これまで、エージングした溶液のHPLC分析を経時的に行うことにより、安定と予想される主要なピークを３種特定している。エージングのスケールアップを行い、これらの生成物を優先して分取HPLC等の手法で分離、精製する。得られた単離物質についてNMR等の機器分析を行い、構造決定する。
以上の結果並びにこれまでの２年間で得られた結果を基に、スギ心材成分と日本酒成分の共存による生成物とその反応機構について考察する。
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| 次年度使用額が生じた理由 |
当年度の実験によって、最も生成量が多く特にエージング初期過程で先行して生じる生成物は非常に不安定であり、分離・精製することが困難であることが判明し、単離には至らなかった。このため、当初予定していた機器分析用の試薬や委託分析の費用が少なくなり、次年度使用額が生じた。
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| 次年度使用額の使用計画 |
高速液体クロマトグラフィー用ワークステーションの更新や種々の分析用試薬類にかなりの予算を使用する予定である。さらに、委託分析費用や国際学会等での発表に必要な参加登録費及び旅費、論文投稿料及び英文校閲等への支出を予定している。
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