研究課題/領域番号 |
15K07523
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
田辺 雄彦 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80391126)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アオコ / 塩分耐性 / 汽水域 / 浸透圧調節物質 |
研究実績の概要 |
宍道湖から分離した塩分耐性を持つアオコ形成有毒ラン藻 Microcystis aeruginosa(ミクロシスティス)の培養株(Sj株)について,培養後ゲノム抽出を行った後,次世代シークエンサーHiSeq(イルミナ社)を用いて全ゲノムシークエンシングを行った。得られた全ゲノム配列データについて,webサーバー(MG-RAST)を用いてアノテーション作業(遺伝子の機能・構造予測)を行った。その結果,Sj株ゲノムから塩分耐性を付与する浸透圧調節物質(osmolyte)の生合成遺伝子を同定することができた。一方,同種の(全ゲノム配列が既知の)塩分感受性株にはこれらの遺伝子が全く存在しないことがわかった。以上のことから,浸透圧調節物質の生合成遺伝子の獲得がミクロシスティスの汽水適応を可能にした,と結論づけられる。Sj株は通常とは異なる構造のミクロシスチン(デスメチルミクロシスチン-YR)を産生することがわかっていた。Sj株ゲノム内からアオコ毒素ミクロシスチンを生合成する遺伝子も見つかったが,この毒素構造を特徴付ける一次構造(DNA配列)上の特性は見つからなかった。Sj株には塩分耐性以外にも宍道湖の環境に適応的な生理的特性がある可能性を考えていたが,それを示唆する遺伝子は見つからなかった。ただし,今回解読されたSj株ゲノム中には多くの機能未知の遺伝子があったため,それらの中に宍道湖適応に関与する(塩分耐性以外の)遺伝子がある可能性は現時点では排除できない。 本年度は宍道湖でアオコ発生が見られず,また日本の他の汽水域でも大きなアオコ発生がなかったため,汽水適応ミクロシスティスの新規株の採集・分離はできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では塩分耐性を持つミクロシスティスSj株のゲノム配列のアノテーション,塩分耐性遺伝子の同定をH28年度中に完了する予定であったが,初年度中に完了することができた。すでに本成果の論文投稿を準備中である。初年度中に宍道湖以外の汽水域のアオコの分析ができなかったが、これはアオコの発生が自然現象であるがゆえの不確実性に起因するものであり、想定の範囲内である。次年度以降の集中的サンプリングで他の汽水アオコのデータが十分にとれるため、これが研究の遅延に該当するとは考えていない。
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今後の研究の推進方策 |
ミクロシスティスSj株のゲノム解読・アノテーション・塩分耐性遺伝子の同定が当初計画以上に早くかつローコストで行えたため,本年度は別の既知の塩分耐性株(菌株保存施設より入手済)の全ゲノム解読を行い,アオコの塩分耐性の多様性・普遍性を解明する予定である。一方,初年度は汽水域でのアオコの発生に恵まれず,このため宍道湖以外の汽水性アオコの分析ができなかった。本年度はアオコの大量発生にかかわらず汽水域でのサンプリングを集中的に行い,低濃度のアオコを濃縮する等の処理を行った上で培養株の確立・遺伝子解析を行い,汽水アオコの遺伝的多様性の解明を試みる。浸透圧調節物質が実際に生合成されてミクロシスティスの細胞内に蓄積しているか確認するため,浸透圧調節物質の定量化を行い,塩分濃度依存的発現を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度は日本の汽水域において、出張に値するような大きなアオコ発生がなかったため、汽水域へのアオコ採集のための旅費が一部使用されず残った。また、次世代シークエンスの業者委託が期間限定のキャンペーン割引で当初予定の半額強で済んだため、この分も未使用額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度未使用額の旅費相当分をH28年度のアオコ採集旅費に使用し、次世代シークエンス委託費の未使用相当分をミクロシスティスの別株の次世代シークエンス業者委託に使用する。
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