研究課題/領域番号 |
15K07524
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
塩出 大輔 東京海洋大学, その他部局等, 助教 (40361810)
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研究分担者 |
内田 圭一 東京海洋大学, その他部局等, 助教 (50313391)
胡 夫祥 東京海洋大学, その他部局等, 准教授 (80293091)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ウミガメ / 定置網 / 混獲 / 突き上げ行動 / 加速度ロガー / 姿勢角 / ODBA |
研究実績の概要 |
希少生物であるウミガメの減少要因の一つとして,漁業による混獲の影響が懸念されている。魚捕部(箱網)の天井が網で覆われている中層・底層定置網では,入網したウミガメが呼吸のために海面へ浮上することができずに死亡する例が数多く報告されており,こうした混獲死亡を回避するために,ウミガメを網外に脱出させる「ウミガメ脱出支援システム」を考案されている。本研究では,呼吸が苦しくなるとウミガメが海面へ出ようとして激しく天井の網を突き上げる「突き上げ」行動に着目し,加速度ロガーのデータから突き上げ行動を抽出するための「行動 ⇔ データ」の関係性導出を目的としてウミガメの行動計測実験を行った。実験用屋外水槽(10m×10m×2.1m)に設置した,定置網の箱網部分の模型網(8m×8m×1.7m)に入れたアカウミガメおよびアオウミガメの行動を,背甲に装着した加速度ロガーにより計測して3軸方向の加速度と遊泳速度を記録するとともに,ダイバーにより水中ビデオカメラで同時に記録した。加速度ロガーデータから,生物自身の動きの激しさを示す動的加速度値(ODBA値)と,静的加速度値からウミガメの姿勢角を求め,これらに閾値を設定することで,突き上げ行動の抽出を試みた。ビデオカメラの映像から突き上げ行動を行った際の時刻を記録し,加速度ロガーデータと照合した結果,ODBA値とウミガメの姿勢角の変化から突き上げ行動を高精度に抽出することが可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,加速度ロガーとビデオカメラによるウミガメの網内行動計測を中心的課題として,初年度には網内でウミガメが行う特徴的な行動である「突き上げ」行動や,天井網や側面の網に沿って遊泳する行動,側面網への接触後の急旋回等の行動を特定する手法を確立することを計画していた。そして,実際に初年度において,中層・底層定置網におけるウミガメの混獲回避手法である「ウミガメ脱出支援システム」においても特に重要な行動である「突き上げ行動」を,加速度ロガーから得られるODBA値とウミガメの姿勢角の変化から高精度に抽出する手法を確立することができた。次年度には,ウミガメが網内で行うその他の特徴的な行動の抽出を試みるとともに,当初計画通りに,前肢のはばたき周波数の変化を詳細に分析することにより,ウミガメ脱出装置への遭遇過程や脱出時の行動において重要となるウミガメの前肢のはばたきと,そこから推定されるウミガメの呼吸欲求の変化の過程を明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,希少生物であるウミガメ類の定置網漁業による混獲回避手法の開発を推し進めていくために必要不可欠である,定置網内におけるウミガメの行動を詳細かつ定量的に把握する計測技術の構築を目指している。具体的には,網内におけるウミガメ類の特徴的な行動である「突き上げ」等の行動を,ロガーデータから再現する手法を構築することを目標としている。初年度の成果を基盤として,今後は,① ウミガメの前肢のはばたき周波数の変化を詳細に分析することにより,ウミガメ脱出装置への遭遇過程や脱出時の行動において重要となるウミガメの前肢のはばたきと,そこから推定されるウミガメの呼吸欲求の変化の過程を明らかにすること,② ウミガメの遊泳速度を正確に取得するために,東京海洋大学の大型回流水槽(最大流速2.0m/s)を利用して,流れに対する加速度ロガーの迎角を変えた場合や,前方に障害物を置いた場合の流速測定値を詳細に分析することにより,ウミガメへの装着時における精確なキャリブレーション値を得ること,③ 実際の海上の定置網において加速度ロガーを用いたウミガメの行動把握試験を行い,本研究の総合的な検証を行うこと,を課題として進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
作業および実施の効率化により,初年度におけるウミガメの網内行動計測実験を実施する際に必要となる消耗品を当初予定よりも少量化することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に実施する,ウミガメの前肢のはばたき分析等の実験を有効かつ高度に実施するために使用する予定である。
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