研究課題/領域番号 |
15K07525
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
藤田 大介 東京海洋大学, その他部局等, 准教授 (70361813)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ユキノカサガイ / シードバンク / 潜在的植生 / 磯焼け / 遺伝子解析 / メタゲノム解析 / ギンタカハマ |
研究実績の概要 |
平成27年度は,5~12月に計5回,宮城県女川町指し浜の砕破帯,残藻帯, 磯焼け帯および冠砂帯の4ゾーン(各0.5×10m)で生息密度と移動を調べた。結果,ユキノカサガイは,各月とも砕波帯から冠砂帯までの全区画に出現し,概ね砕波帯や残藻帯で密度が高い傾向にあり,深所の冠砂帯では密度が最も低いことがわかった。各ゾーンの平均密度は年間10~100個体/㎡の範囲で,海藻の着生基質として十分な個体数が広く分布していることを確かめた。特に,6月と8月は砕波帯で稚貝が多く,密度も高かった。磯焼けの持続要因であるウニや小型巻貝についても密度や分布を調べ,ユキノカサガイの生息密度との関係を精査中である。 ユキノカサガイの移動は,6月と10月に各ゾーン50個体(合計200個体)にプラスチック片で標識を施して放流を行い,2カ月後に採捕した。6月放流貝は標識の脱落が目立ったが,10月放流貝は多数が再捕され,概ね半径2m以内に留まることを確かめた。 貝殻上の潜在的植生を可視化するため,各月のゾーン毎の採集貝の殻(各5枚)を1~2ヵ月間,栄養強化海水PESIで培養した結果,すべての殻から海藻が出現し成長し,形態分類で21種の海藻を識別でき,5月に最多(20種)となった。うち5種はすべての採集月に出現したが,コンブなどの藻場形成種が全く出現しなかった。 メタゲノム解析(遺伝子解析)では,8月に採集した24個体(各ゾーン6個体)の貝殻から表面の付着物(潜在的植生)を削り落としてサンプルとし,DNA抽出を行い,PCRで増幅し,これを精製後にシーケンスを調べた。結果は現在整理中である。 このほか,11月に大分県の名護屋で潜水し,南日本版シードバンク判定基質としてギンタカハマの生息密度を調べた結果,水深2~10mの範囲で0~5個体/㎡であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の進捗状況として,メインフィールド女川町御前湾のユキノカサガイの分布や生息密度については通年データの8割が修了したが,移動については標識個体の追跡を継続する必要がある。また,多くのユキノカサガイは,殻状の無節サンゴモや褐藻が着生し,一部に直立海藻の芽生えも見つかることがあったが,一方で,これらの着生藻類が極めて乏しく地の色が表れている貝,同種,他の小型巻貝,あるいはウニが殻上に乗っている貝,ウニの食痕が殻状藻類上に残されている貝などが見受けられたため,これらの割合などを密度調査時の枠取り写真から求める作業を現在行っている。サブフィールドでは,ギンタカハマの分布・密度調査を終えた。 培養実験も,毎回の採集貝を用いて着実に実施できており,ユキノカサガイの貝殻表面から20種にも及ぶ海藻を発芽させ可視化に成功し,潜在植生の判読基質として利用できることを確かめた。しかし,まだ,コンブやワカメなど藻場形成種の可視化できていない。予備試験では遺伝子解析によりワカメの遺伝子が検出されており,他の海藻が多数出現することから考えると,この結果は,元々海域での遊走子供給量が少なく殻面に着底していない,雌雄のうち片方の配偶体しか着底しておらず受精や胞子体形成が行われない,胞子体は発芽したが培養化で先に繁茂した海藻との競合に巻けて成長しない,などの理由が考えられる。そこで,遊走子濃度を変えた播種・培養を行い,発芽段階毎の遺伝子検出の確認が必要と考えられた。 遺伝子解析実験では,プライマーの選択に時間を要したが,1回目のメタゲノム解析は終えている。今後は,再現性を確認するとともに,効率化をや サブフィールドでは,ギンタカハマの分布・密度調査は終えているが,今後は殻表面の削り落としサンプルの入手と解析に力点を置き,今回提案する手法が南日本にも展開できるか,感触を得たいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,女川湾フィールドにおけるユキノカサガイの分布や生息密度,移動に関する生態学アプローチは4月まで調査を行い,通年の季節毎データを揃える。このデータも含め,昨年度の生態調査時に撮影した写真の解析から,現地で潜水視認によりある程度の判断を行うための貝殻上の植生パターンの判別を実施する。 調査区域では東日本大震災後に成立したコンブ・ワカメ群落があり,昨年まで存続していたが,この付近のコンブは成熟期間前に消失してしまい,ユキノカサガイの貝殻表面からコンブやワカメを培養下で検出することできなかったが,今年度は群落も形成されていないことが4月の時点で確認された。このため,少し離れたコンブ群落で改めてと周辺でユキノカサガイを採集し,シードバンクの検出再度を試みる。 天然環境のユキノカサガイサンプルでは,予備試験結果においてワカメの検出に成功しているが,コンブやワカメの群落の存続や成熟,遊走子放出に左右されるため,実験室内で遊走子の濃度を変えて貝殻上に播種し,その発芽段階毎の遺伝子検出を行い,結果の解釈の参考資料を得る。このほか,昨年度の生態調査では,ユキノカサガイの他の個体や他の植食動物がユキノカサガイ貝殻上の植生を摂餌し,特にウニについては食痕も認めたので,室内培養による潜在植生の検出においては,これらの影響についても調べる。 メタゲノム解析については,1回目の結果を精査したうえで,プライマーの検討を加えながら,殻からの削り落としサンプルからの潜在植生の検出を確実にできるようにする。 南日本におけるシードバンクの検出にはギンタカハマを想定しており,サブフィールドでは,ギンタカハマの分布・密度調査は終えているが,今後は殻表面の削り落としサンプルの入手と解析に力点を置き,今回提案する手法が南日本にも展開できるか感触を得る。
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