研究課題/領域番号 |
15K07526
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
木村 妙子 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (40346002)
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研究分担者 |
北村 淳一 三重大学, 生物資源学研究科, リサーチフェロー (00432360)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 干潟 / 塩性湿地 / 貝類 / エコリージョン / 保全 / レーダーチャート / 健全度 |
研究実績の概要 |
1.国内の干潟・塩性湿地のエコリージョンの区分:全国レベルの干潟・塩性湿地生態系の健全性評価のために,まず評価範囲の単位となる生物地理的なエコリージョン区分を行った。この基礎データとして,第7回自然環境保全基礎調査の全国干潟調査(環境省,2007)157ヶ所,309種の貝類データを用いた。分析はTWINSPAN(二元指標種分析)を用いて,貝類相の類似度からエコリージョンを決定した。分析の結果,日本の干潟の貝類相は地理および環境特性の違いにより11個のグループに分割された。さらに各エコリージョンの出現種数や優占種,科の構成からみた特徴が明らかにされた。この成果を日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会で口頭発表した。 2.中部・東海地域の貝類相および環境調査:エコリージョン内の生態系健全性の評価のために,今年度は東海地方の伊勢湾,三河湾,英虞湾,五ヶ所湾の15ヶ所の干潟や塩性湿地において貝類相調査と環境調査を行った。昨年の調査と合わせて,93種の貝類が確認され,各ヶ所で9~31種が確認された。 3.貝類相データと生物的指数表に基づくレーダーチャートの作成:これまでの貝類相調査で確認された93種について,生態的特性をまとめた生物的指数表を作成し,それを基にしてレーダーチャートを作成した。レーダーチャートの形状から大きく3つ(多角型,十字型,X型)に分類された。多角型のグループは,環境が多様であり,出現種数も多かった。十字型のグループは,塩性湿地があるものの底質が単調であり,塩性湿地に対応する指数以外のスコアが低くなっていた。一方,X型のグループは,塩性湿地がなく,潮上帯や植生などのスコアが低かった。レーダーチャートの形状は多様度指数など既存の指標との関係が認められ,干潟の健全度を示していると考えられた。この成果を軟体動物多様性学会の国際シンポジウムにおいて口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生態学的な健全性の比較を行う際には地域の生物相を反映したエコリージョン内で行う必要がある。日本は国土が南北に長く,海流の影響も受けるため,地理的・気候的に生物群集が細かく分かれている。これまで干潟および塩性湿地生態系については全国的な健全性の検討が行われた例がないため,健全性を評価する際には,まずエコリージョンの定義が必要である。27年度の分析の結果,全国の干潟貝類のエコリージョンは地理や環境特性の異なる11個のグループに区分された。28年度は各エコリージョンの貝類相の特性を明らかにし,研究成果を日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会で発表した。 中部・東海地方の現地調査としては,27年度に行った6ヶ所に加え,28年度は15ヶ所で調査を行った。調査地点の増加に伴い,確認種数も22種増加し,これまでに合計93種が確認された。また全地点で全国干潟調査では行われなかった詳細な地盤高や底質調査も行っており,現在分析中である。 28年度はこれまで貝類相調査を行った21ヶ所の干潟について,生物的指数表を基にしたレーダーチャートを作成し,視覚化を行った。レーダーチャートの形状から大きく3つのタイプ(多角型,十字型,X型)に分類され,それぞれの貝類相および環境特性を明らかにすることができた。レーダーチャートの結果は多様度指数など既存の指標との関係も認められ,干潟の健全度を示していると考えられた。また,各グループの示す生物学的・環境的傾向から,今後の保全やミチゲーションの指針を具体的に示すことができると考えられた。これらの成果についても軟体動物多様性学会の国際シンポジウムで口頭発表をした。進行状況はおおむね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
27年度,28年度の全国の干潟貝類相のエコリージョン区分の分析により,全国の干潟は11個のエコリージョンに分けられ,出現種数や優占種,科の構成からみた各リージョンの特徴が明らかにされた。この成果は日本ベントス学会大会で発表された。29年度は各リージョンの貝類相の多変量解析を行い,環境との関係を明らかにする。そして,9月に開催される日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会で発表をし,同時に学術誌への投稿を行う。 中部・東海地方の現地干潟調査については,29年度は調査する地点を増やし,当地方の干潟を網羅し,潜在的な貝類相を明らかにする。それらのデータを用いて28年度に続いて,各調査地の出現種から各生物的指数を合算したレーダーチャートで視覚化し,健全性を簡便に評価することをめざす。そして並行して行う現地の環境調査から底質分析等を行い,各地の環境特性を評価し,評価手法の妥当性を検証する。また,本研究の調査地点において,全国干潟調査のように過去の貝類相データがある場合はそれと比較する,あるいは,過去の地図や航空写真から消失した環境を類推することでも評価手法の妥当性を検討し,今後の評価手法の実用やミチゲーション事業に資するようにしていきたい。この成果は11月に開催されるアジア海洋生物シンポジウムおよび3月に開催される日本生態学会大会で発表をし,同時に学術誌への投稿を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
その他に含まれる高性能GPSについて,当初予算案では9カ月のレンタルとしたが,干潟の現地調査は春から夏を中心に行うため,今年度は4月から7月に3ヶ月間レンタルをし,残りは次年度のレンタルとした。また,旅費に関して,今年度は近隣の調査が多く,また熊本で予定されていたアジア海洋生物国際シンポジウムが地震により延期されたため,予定よりも使用が少なかった。人件費の使用が予定より少なかったのも,近隣の調査が多かったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も高性能GPSは春から夏の3~4カ月のレンタルの予定である。旅費や人件費に関して,29年度は3回の国際シンポジウムを含む学会発表を予定している。また,野外調査も今年度よりも多くの地点を行う予定である。
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