温帯沿岸の岩場からサンゴ場への環境変化に伴う魚類相の遷移に、餌場としての生息場所依存度や冬季の低水温耐性がどのように関わっているのかを水産有用種などを対象に野外観察や室内実験で調べた。高知県沿岸の岩場とサンゴ場における藻食魚類6種と底生無脊椎動物食(以下、ベントス食)魚類6種の個体数密度(分布)と摂食場所(各種20-40個体、1個体の調査時間30分)を調べたところ、藻食魚類のうち熱帯種は岩場と死サンゴ場を餌場として利用していたものの、温帯種は岩場を中心に利用していた。一方、ベントス食は、温帯種は岩場を中心に利用していたのに対して、熱帯種はサンゴ場を中心に利用する種もいれば岩場とサンゴ場の両方を利用する種もいた。餌生物の分布を調べると、岩場と死サンゴ場にはどちらも藻食魚類の餌となる微細藻類が生えており、また小型甲殻類が多数生息していた。それに対して、生サンゴには微細藻類はなく、生息する甲殻類も大型のものが多かった。魚類各種の摂食回数は水温が低下するほど減少し、この傾向は温帯種よりも熱帯種で顕著であった。 高知県沿岸に出現する熱帯性魚類のうち、越冬できる種とそうでない種の低水温耐性を水槽実験で調べたところ、越冬できる種は高知県の冬季最低水温でも生残率が高かったのに対して、越冬できない種は低かった。摂食率をみると、高水温時はどちらのタイプの種も違いはみられなかったが、低水温時では越冬できる種はそうでない種よりも有意に高かった。 以上の結果から、温暖化による魚類の分布変化予測モデルには、水温変化だけで分布変化の予測をできる種もいれば、水温だけでなく餌場として利用する環境の分布もモデルに入れないといけない種もいることが明らかとなった。
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