研究課題/領域番号 |
15K07530
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 利一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20284713)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 海洋生態 / 食物連鎖 / 貧酸素水塊 |
研究実績の概要 |
平成28年の4月から10月にかけて、長崎大学練習船鶴洋丸で長崎県大村湾中央部を毎月調査した。海底直上水の溶存酸素濃度は6・7・8・10月に3mg/L以下、特に8月は0mg/Lで無酸素化していた。 無酸素化していた8月の海底直上水(水深19m)では、ピコプランクトン(個体サイズは0.2~2μm、主に浮遊性細菌)の出現量は5.4E+09 cells/Lで、他の調査時の海底直上の出現量(8.7E+08~1.6E+09 cells/L)よりも多くなっていた。ピコプランクトンよりもサイズが大きいナノプランクトン(個体サイズは2~20μm、主に小型の原生生物)で、光合成を行う個体の無酸素時の出現量は5.7E+05 cells/Lであり、他の調査時(1.6E+05~1.6E+06 cells/L)の出現範囲内であった。非光合成のナノプランクトンの出現量は1.7E+05 cells/Lであり、他の調査時(1.5E+05~5.0E+05 cells/L)の出現範囲内であった。大型な原生生物である繊毛虫プランクトンの、無酸素時の出現量は1.1E+04 cells/Lで、他の季節における海底直上の出現量(1.5E+03~7.1E+03 cells/L)よりも大きくなっていた。 このような結果から、夏季大村湾の無酸素化した環境は決して死の世界ではなく、微生物群集は多量に出現している事が明らかとなった。また、浮遊性の細菌の現存量は特に大きくなっていたが、これらの群集の生産は、小型の原生生物に摂餌・転送されるよりは、繊毛虫プランクトンに強く摂餌・転送され、浮遊性細菌から繊毛虫へ向かう食物連鎖を形成していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、4月から10月にかけて長崎県大村湾で7回調査を行い、全ての調査時に試料を採集することが出来た。また、夏季には典型的な貧・無酸素水塊が出現し、6・7・8・10月には海底付近で溶存酸素濃度が3mg/L以下となり、特に8月は0mg/Lの無酸素状態となった。 予定通り採集したサンプルを検鏡・解析した結果、無酸素水塊中においても浮遊性細菌が出現し、その個体数密度は無酸素化していない水塊中よりもかなり多いことがわかった。さらに、無酸素水塊中においては繊毛虫プランクトンも多く出現し、浮遊性細菌から繊毛虫プランクトンにつながる食物連鎖の存在が示唆され、平成28年度の研究実施計画をほぼ実行することが出来た。また、本研究課題の目的である「無酸素水塊中における微生物群集現存量の把握、および、食物連鎖構造の把握」についても、粗削りではあるがだいたい達成することが出来た。 平成28年度から平成29年度にかけては、貧酸素水塊中に出現する原生生物を鍍銀染色・封入して永久プレパラートを作成・観察することを予定しており、この研究項目についても既に開始した。ただし、貧酸素水塊が出現した海底直上の標本試料については、海水中に懸濁している泥の粒子が多く、これが原生生物標本を覆い、顕微鏡による詳細観察が困難となっている。平成29年度は、標本を詳細に観察するために、泥粒子と生物標本を分離させる方法を考え、観察に適した永久プレパラートを作成する事が、方法上の大きな課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、4月から10月にかけて、長崎大学の練習船鶴洋丸を用いた大村湾の観測を9回予定している。貧酸素水塊発生時の調査だけではなく非発生時の調査も行い、平成28年度に得られた結果と同じか否か、出現する微生物の量や組成について年変動があるか否かを確認する。また、注目する微生物の範囲を広げ、数ミクロンから数百ミクロンまでの個体サイズを対象とし、単細胞プランクトンと多細胞プランクトンの両者を定量・定性的に調査する。多細胞プランクトンの層別採集では、水深の浅い大村湾に合わせて改良したプランクトンネットを使用する予定である。 夏季に貧酸素水塊となる海底直上水には、泥粒子が高濃度に漂っており、採集試料中に泥粒子が混入してしまうことがわかった。そのため、標本が泥粒子に覆われ、原生生物の観察が困難となった。平成29年度には、原生生物個体を泥粒子から分離し、泥粒子に邪魔されることなく観察する方法を模索し実行する。泥粒子は比重が大きいことから、比重の違いで分別する手法を選び、粘性が小さく比重調整が可能な水溶液を候補とし(臭化ナトリウム溶液や臭化カリウム溶液等)、その中で、染色に対して悪影響を与えない水溶液を用いる予定である。 分類の基準が、鍍銀で染色された後の細胞内外の特徴に基づいている生物群に関しては、分類や同定の作業が極めて難しく、広い生物群を個人の研究者で扱う事は不可能である。また、未記載(新種)の個体も数多く出現することが予想される。そのため、平成29年度は、国内外の専門家にプレパラートを送付し、協力を得ながら分類・同定・新種記載を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)交付申請書」に従って、無駄なく出来るだけ有効に物品を購入してきた。しかしながら、平成28年度内に過不足なく収めることが出来ず、やむを得ず1,504円を余らせてしまったため、次年度使用額が生じる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額1,504円については、平成29年度の物品費として、無駄なく有効に活かす予定である。
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