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2017 年度 実施状況報告書

養殖環境中の多剤耐性菌が利用する遺伝子伝達メカニズムとその多様性

研究課題

研究課題/領域番号 15K07531
研究機関獨協医科大学

研究代表者

野中 里佐  獨協医科大学, 医学部, 講師 (70363265)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2019-03-31
キーワード遺伝子伝達 / 多剤耐性 / チロシンリコンビナーゼ / プラスミド / 接合 / トランスポゾン / pSEA1 / Tn6283
研究実績の概要

①伝達性多剤耐性プラスミドpSEA1上の新規トランスポゾンTn6283の染色体への挿入が大腸菌に与える影響を明らかにするために、Tn6283が染色体上のbcp遺伝子内に挿入された株(LN5)、bcp遺伝子破壊株(LN3)および大腸菌W3110を用いて、最大増殖速度、生菌数および集団内の死細胞率を比較した。LN5およびW3110の間では最大増殖速度や生菌数に有意差はなく、Tn6283の挿入が大腸菌の生理状態に与える影響は極めて低いと考えられた。一方、LN3はLN5およびW3110より有意に高い最大増殖速度を示したことからbcp遺伝子欠損により上昇した最大増殖速度はTn6238挿入により通常レベルに補正されていることが示唆された。Tn6283の挿入により破壊されるbcp遺伝子欠損のダメージ(最大増殖速度の上昇)はTn6238自身がコードするbcpホモログにより補填されている可能性がある。LN5の死細胞率はW3110に比べて有意に高かったが、LN5は非選択環境で10日間継代培養後も安定してTn6283を保持していた。これはTn6283の染色体への挿入は大腸菌増殖への負荷はないものの、細胞死を引き起こす、しかしTn6283は安定的に集団内に保たれているということを示している。Tn6283は新規チロシンリコンビナーゼをコードし、かつ既知のトランスポゾンで報告されているRDF因子を有しないことおよび前年度までに得られた実験結果を併せて考えるとTn6283の切り出し・組み込みの機構は新規であることが示唆された。またTn6283が切り出された際、切り出しによるプラスミドや染色体上の傷は修復されず細胞は死に至り、その結果Tn6283を保有する大腸菌のみが生き残っていくことが示唆された。
②養殖場分離株を用いてエリスロマイシン耐性遺伝子が様々な遺伝子伝達因子にコードされていることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究結果は昨年度内の受理を目指して学術誌に投稿したが、Applied Environmental Microbiology誌では却下となり、現在PLOS ONE誌の査読結果を受けて、追加実験および改訂稿の準備を進めており、6月中に提出予定である。予定より若干時間がかかっているものの、概ね順調に進行しているといえる。
具体的には複数の接合体およびpSEA1のホストであるVibrio ponticus 04Ya108 からゲノムDNAを抽出し、制限酵素による染色体切断後、Tn6283内にコードされるintA遺伝子をプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、pSEA1の大腸菌染色体への組み込みが、非常に高い確率で大腸菌染色体上の同一の1カ所に生じていることが強く示唆された。またV. ponticusについては、pSEA1に加え、染色体上にもTn6283がコードされていることが示唆された。

今後の研究の推進方策

V. ponticus 04Ya108ではプラスミドpSEA上のみならず、染色体上にもTn6283がコードされていることが新たに示唆されたため、V. ponticus 04Ya108の全ゲノムを次世代シークエンサーPacBioにより取得し、本菌の染色体上におけるTn6283挿入部位を特定する。本株が保有するプラスミドであるpSEA1上での挿入部位および大腸菌染色体上での挿入部位の三者間で配列の比較を行い、Tn6283がコードするリコンビナーゼの特徴を明らかにする。我々が予想している通り、V. ponticusにおいても大腸菌と同じくbcp遺伝子内にTn6238が挿入されていた場合には、Tn6283によりbcp遺伝子の機能が補填されていることを過酸化水素など複数のoxidantを用いて確認する。
一方、独立した接合伝達実験で得られた21の接合体のうち1株ではbcp遺伝子以外の場所にpSEA1が挿入されていることが示唆されており、本接合体についても現在挿入部位の特定を試みている。また本株では染色体上に挿入されたTn6283の一部に欠損が生じていることおよび非選択状態でも薬剤耐性遺伝子を含むプラスミド由来配列が染色体から脱落しなくなることが示唆されており、Tn6283の部分的な欠損が耐性遺伝子の染色体上への固定に関連していることが示唆される。このような現象は耐性遺伝子が細菌染色体をリザーバーとして利用し、安定して環境中に保持される要因となっていると考えられる。今後、このTn6283部分欠損株を抗菌薬を添加しない状態で継代培養し、耐性遺伝子保有率を欠損なしのTn6283保有株と比較しTn6283に生じる欠損が耐性遺伝子の保持に有利に働いていることを確認するともに、Tn6283上に生じた欠損を塩基配列レベルで明らかにし、欠損により切り出しが起こらなくなるメカニズムを明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

【次年度使用額が生じた理由】
本研究により得られた成果は2017年8月にApplied Environmental Microbiology誌に投稿したが却下された。その後内容を訂正し、2017年11月にPLOS ONE誌に投稿し、翌月に複数の追加実験を要求する査読結果を受け取った。論文受理のためには要求された追加実験を行うことが必須であるため、事業期間の延長および研究費の次年度使用を希望し、現在追加実験を行っている最中である。6月中に改訂稿を提出予定である。
【今後の使用計画】
査読者より求められた追加実験に必要な試薬等の購入、V. ponticus 04Ya108の全ゲノム塩基配列解析(外部委託)等に使用する。なお、再投稿の結果、再び再投稿を要求される可能性や却下される可能性もあるため、状況に応じて使用していく予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2017

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)

  • [雑誌論文] The novel mef (C)-mph (G) macrolide resistance genes are conveyed in the environment on various vectors2017

    • 著者名/発表者名
      Sugimoto Yuta、Suzuki Satoru、Nonaka Lisa、Boonla Chanchai、Sukpanyatham Nop、Chou Hsin-Yiu、Wu Jer-Horng
    • 雑誌名

      Journal of Global Antimicrobial Resistance

      巻: 10 ページ: 47, 53

    • DOI

      http://dx.doi.org/10.1016/j.jgar.2017.03.015

    • 査読あり / 国際共著

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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