研究課題
細菌間における遺伝子伝達は薬剤耐性菌発生・拡大のリスクファクターとして重要である。本研究では養殖環境由来耐性菌が利用している遺伝子伝達機構の多様性を明らかにし、伝達性プラスミドが受容菌染色体上へ組み込まれる分子メカニズムを解明することを目的として、まず養殖場底泥から分離されたビブリオ属細菌(Vibrio ponticus)がもつ伝達性多剤耐性プラスミドpSEA1(約300kb)の全塩基配列決定により、pSEA1が7つの耐性遺伝子をコードし、伝達性プラスミド分類において新規のサブグループを形成することを明らかにした。また本プラスミドが大腸菌染色体へ組み込まれるメカニズムを以下のように提唱した。まずプラスミド上に存在する約12kbのトランスポゾンTn6283が、自身がコードするリコンビナーゼの働きにより切り出された後(copy-out-paste型)、大腸菌染色体上の特定の領域に組み込まれる。次いでTn6283と元のプラスミド上のTn6283の間で相同性組み換えが起こることによってpSEA1全長が大腸菌染色体へ取り込まれる、というものである。このようにTn6283は、既知の可動性因子と異なり、自身は伝達能力をもたないが、プラスミドの伝達能を利用する形で大腸菌へと伝播し、大腸菌内でプラスミドの染色体への組み込みをアシストするという非常にユニークな可動性因子であるといえる。Tn6283内のインテグラーゼのホモログはビブリオ科および腸内細菌科細菌に広く分布しており、今回我々が発見した上述の機構は種々の細菌間の耐性遺伝子伝達に寄与している可能性がある。一方、タイおよび台湾の養殖場から分離された薬剤耐性菌の解析によって、養殖場環境細菌には耐性遺伝子伝達能を有するものが多数存在し、複数種のプラスミドに加え未知のものも含めた多様な可動性因子を利用していることを明らかにした。
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PLOS ONE
巻: 13 ページ: e0198613
10.1371/journal.pone.0198613