研究課題/領域番号 |
15K07533
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
加戸 隆介 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (40161137)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナンオウフジツボ / ハプロタイプ / 分布水深 / 幼生形態 / 幼生の塩分、水温耐性 |
研究実績の概要 |
1.国内における新外来種ナンオウフジツボの分布域調査: 本年度は新潟県(聖籠町網代、岩船港、巻漁港、寺泊港、出雲崎港、柏崎港)および北海道(札苅漁港、松前漁港、松前大沢漁港、中の川漁港、吉岡漁港、江差漁港)において分布状況を調査した。その結果、いずれにおいても多数の本外来種の生息を確認した。 上記のサンプル(新潟県は寺泊のみ)に大槌湾(赤浜)、越喜来湾(崎浜)、より採集した標本を加えて遺伝子(CO-1領域)解析を行った結果、合計47のハプロタイプを検出した。このうち、新潟県で検出されたハプロタイプ数は18、岩手県のそれは25、北海道のそれは36存在し、これらの3地点で共通するハプロタイプは12であった。地中海のイタリアの2つの州で調べられたハプロタイプ数(34と16)(Villamor et al, 2014)とは大差ないと判断されたが、ハプロタイプの頻度について詳細な検討を行う。 2.幼生形態から見たナンオウフジツボの特徴: 最も出現頻度が高い第2期幼生では、本種は頭甲側縁のやや後方に一対の顕著な棘が存在する。この特徴はサラサフジツボにもみられるが、サラサフジツボ幼生とは前側角の大きさや向きにおいて異なる。東北地方にはサラサフジツボは分布しておらず、また、本邦全域でもサラサフジツボは希な種となっていることから、ナンオウフジツボ幼生を他のフジツボ幼生と区別することは困難ではないと考えられる。 3.ナンオウフジツボの付着水深: 本種の鉛直分布水深(大槌湾赤浜突堤)を調べた結果、平均潮位を基準として、-30 cm~-80 cmの間(ピークは-60 cm)に付着が確認された。東北太平洋岸では、この水深にはチシマフジツボ、キタアメリカフジツボ、ムラサキイガイが存在する。今後これらの種との競合に注目する必要があろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.27年度は遺伝子解析用サンプルの多数確保を主な目的としたため、新潟と北海道に絞って実施した。そのため、分布の域の現状は過去以上には明らかにできていない。分布解明には、水中カメラの携行が欠かせないことが明らかとなったため、28年度は胃カメラ様遠隔操作カメラを入手して,水面直下付近の付着状況を探ることを試みる。 2.遺伝子解析は新潟、北海道、東北ともに十分なサンプルを解析できた。28年度は分布拡大経路解明につながるように、新潟と秋田の中間地帯としての秋田のサンプルを多数入手して分析を実施する。また、新潟以西で多数分布が明らかな場所があれば、同様に解析を進める。 3.幼生形態については、担当者の体調不良により、頭盾に関してはノープリウス第4期、ノープリウス第5期の頭盾形態がまだ明らかにできていない。28年度には全発生段階の形態解明を目指す。 4.幼生の環境要因に対する特性解明は、水温、塩分に関して発生速度、生残率を明らかにできている。
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今後の研究の推進方策 |
1.本邦への分布拡大の源となった韓国にできるだけ近い水域(例えば、対馬、福岡など)での分布調査を実施することにより、移入源におけるハプロタイプの実態を明らかにする。さらに、ヨーロッパ産の本種から得られているハプロタイプと比較し、ヨーロッパからアジアへの分布拡大状況について検討する。 2.本邦での分布北限、南限についても候補地を絞って調査し、将来の分布拡大を見据えて現在での分布の現状を明らかにする。 3.漁港から離れた海岸として、吉浜湾舟作の岩礁海岸における本種成体の出現状況を追跡調査することにより、天然岩礁域における既存の生物相への本種の影響を明らかにする。 4.室内実験の利用可能なサンプルが入手できれば、本種成体の水温、塩分に対する特性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 当初購入を予定していた遺伝子分析に必要なPCR装置をまだ購入していない。ただし、分析は連携研究者の野方靖行博士に依頼して実施して進めており、現状では予定通り分析が進められている。 2. 初年度、外来種の国内分布域調査および遺伝子分析用標本採集を新潟県と北海道南部の2箇所で実施したが、富山県以西、宮城県以南ではまだ実施出来ていないことによる。なお、岩手県で行った標本採集および分布水深調査は別予算で同県に調査で訪れた際に平行して実施出来たため、予算を削減できた。 3. 人件費および謝金として、連携研究者の旅費、宿泊費を計上していたが、メールでのやり取り等で分析を進めることになったため、予算を使用していない。
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次年度使用額の使用計画 |
1. 秋田や新潟への移入起源地として想定される韓国での採集調査を当初予定していたが、採集物を日本国内に持ち込むことが困難になってきていることから、現状では韓国での海外調査を見送る予定である。ただし、移入源の遺伝子情報(ハプロタイプ数や頻度など)は必須であるため、できるだけ韓国に近い九州地方(福岡または対馬)で分布域調査を実施する計画である。2. 連携研究者の研究業務内容変更の可能性が生じた。そのため、事情に応じて遺伝子解析を研究代表者自身が実施するか、外部に分析を委託するかなどの変更が必要となり、予定していた分析機器の購入に充当する
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