最終年度である平成29年度は、これまでに実施したアンケート調査の分析結果について、国内外の複数の学会で口頭発表を行った。学会発表で得たフィードバックをふまえ、追加で分析を行い、研究成果を国際学術雑誌へ投稿した(平成30年5月14日現在、査読審査中)。特に日本在住者に対するアンケートについて、文化的・哲学的背景と海に対する価値観との関連についてさらに詳しい分析を追加した。その結果、アンケートに回答した日本在住者の場合、「漁業資源の提供」という目に見える海洋生態系サービスよりも「海による二酸化炭素の吸収」という目に見えない海洋生態系サービスに対する政策支持意欲が高いことが明らかとなった。海洋生態系サービスの保全に対する政策支持意欲が高い回答者は「公共心」および「人とのつながり」が高い一方、海洋生態系サービスという公共財への支払いを拒否する「フリーライダー」は、「公共心」および「人とのつながり」が低いだけでなく、「人ではない神や精霊などの見えないものとのつながり意識」も低いことが明らかとなった。また、日中韓の3カ国全体のアンケートを分析した結果、東シナ海と公海について、海洋環境保全のための寄付金の支払意図に有意な差はなかった。このことから、利害が輻輳する海域であっても、沿岸国在住者は海を共有財として認識していることが推察された。一方、海そのもに対する在住者の認識は、3カ国で異なっていることが明らかになった。日本のアンケート回答者は海を「畏怖の念を伴う恵み」として捉えている一方、中国および韓国の回答者は海を「実利をもたらすもの」として捉えていることが明らかとなった。このことから、海に対する認識は、津波や台風などの自然災害の頻度や被害の程度に影響される可能性が推察された。
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