研究課題
淡水生態系の絶滅危惧種「リュウキュウアユ」は,その自然個体群を奄美大島のみに残す.本研究は,リュウキュウアユの具体的な保全策・存続手法の提案のために不可欠な,メタ個体群構造の実態解明を(1)生態調査と(2)遺伝分析,2つのアプローチから追求するものである.プロジェクトの最終年である本年度は,生態データの解析,DNA実験の追加・データ解析,成果の公表等を進めた.(1)については,奄美大島の各河川における,1992年以降の在・不在や個体数データ,河川生息環境データを解析した.解析結果から,メタ個体群のソースとシンク河川のうち,一定の流量がない小規模河川はシンクとなり,ある程度流量があったとしても,ソース河川からの距離が離れるほど,個体群の維持が難しいことが分かった.(2)については,1992-2017年に採集した1235個体について,38のマイクロサテライトDNAマーカーによる大規模なDNA分析を行った.DNA分析の結果から,閉鎖的な湾に産卵河川1本と複数の小河川が注ぐ奄美西部は,遺伝的に単一のメタ個体群だった.一方,奄美東部の大小11河川では,「住用湾の複数河川は遺伝的に均一のメタ個体群構造」を持つものの,「住用湾からやや南に位置する河川は,遺伝的に異なる」特徴を持つことが分かった.この河川では,ほぼ毎年小規模の産卵が見られるが,住用湾内の主要産卵河川から遺伝子流動の影響を過去も現在も受けながら,独自の遺伝子頻度を維持していることが考えられた.この十数年の間にその河川の個体群は少なくとも一度は絶滅しており,住用湾内の河川からの移入個体により回復したことも示唆された.以上のことから,リュウキュウアユを効果的に保全するには,特定の河川ではなく,メタ個体群全体について保全策を講じる必要性が示された.特にシンク河川では,産卵環境の改善と河口閉塞対策など移入経路の確保が求められる.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 6件、 招待講演 4件)
Ichthyological Research
巻: 65 ページ: 92-100
10.1007/s10228-017-0596-1