研究課題/領域番号 |
15K07541
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白木原 國雄 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (90196618)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スナメリ / 個体群構造 / 出生率 / 体長推定 |
研究実績の概要 |
沿岸性鯨類スナメリは個体数減少が懸念されている.本研究の目的はスナメリの九十九里~鹿島灘個体群を対象として,現在の個体群構造を明らかにし,個体群動態の面でのその健全性を評価することである. 2015年5月,同年7月,2016年3月に4人乗りセスナからの目視観察を千葉県山武市から茨城県鹿嶋市までの沿岸海域で行った.離岸距離15km以内(水深ほぼ50m以浅)で岸にほぼ平行な飛行コースを設定した.スナメリの群れを発見すると群れサイズを計数した.また親子連れを親子小(親とその体長の70%未満の新生子),親子大(70%以上の1歳子)に区分した.10頭以上の群れに遭遇すると,原則的に群れの回りを旋回して群れのビデオ撮影を行った. 5月調査では487kmの飛行から129頭を発見し,新生子割合は7.0%であった.7月では378kmの飛行から225頭の発見で新生子割合8.1%,3月では376kmの飛行から111頭の発見で新生子割合2.7%であった.スナメリの発見は離岸距離10km以内に限定され,親子小は他個体に較べて,5月,7月にはより沖合に出現したが,3月にはより岸寄りに出現した.7月には大群が出現した.ビデオ撮影から25頭の群れ内の新生子割合は8.0%であった. 本個体群の出産が3月にすでに始まっていることを確認した.出産期,出生率(新生子割合の出産期内最大値),親子の利用海域の季節変化について,次年度以降に蓄積したデータを用いて明らかにしていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していたスナメリの洋上での体長推定はまだ試みていない.セスナからのスナメリの連続空撮調査を予定通り3回行った.しかし1回目はビデオカメラの動画撮影設定やビデオカメラの固定方法に問題があり,鮮明な画像を得ることができなかった.2回目も体長推定に必要なセスナのロール角の連続撮影に失敗した.当初,使用を考えていた角度計は,加速度の影響を補正する機能を有していないために,ロール角の計測に有用でないことが分かった.そこでセスナのパイロット席の前方にある水平儀を助手席側からビデオ撮影を試みたが,水平儀の斜め画像からロール角を正確に読み取ることは困難であったし,水平儀のガラス面に光が反射して水平儀そのものが撮影されないことがしばしば生じた.これら問題点を解決した後に3回目の調査を2015年9月に行う予定であった.しかし荒天のために実施できなかった.対象海域の出産期は現時点で春と想定されていることから,2016年3月に行うこととした.この調査を実施できたのは好天であった2016年3月下旬であった.そのために,スナメリ撮影画像から体長を推定するためのパラメータを得るための室内作業を年度内に行う時間的余裕がなかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降も以下の調査を実施してデータ蓄積を図る. 1.調査(セスナからのスナメリの空撮と目視):調査員3名がセスナからの目視観察を年あたり3回春を中心に行う.目視観察中,スナメリの体長推定のために,セスナの窓に固定したビデオカメラによる海面の連続撮影を行う.2.解析(洋上での体長推定):飛行高度とビデオカメラの伏角からビデオカメラとスナメリとの距離を求め,スナメリの撮影画像の長さを体長に変換する.3.解析(出産期と出産期の推定):母親に同伴された新生子の発見個体に対する割合の季節変化を調べる.この割合が上昇し始めてから高い値で安定する時までを出産期とする.出産期盛期~末期の新生子割合を出生率とする.4.解析(個体群構造とその健全性):体長組成を既知の成長曲線により年齢組成に変換する.出産期の年齢組成を当該年の個体群構造とみなす.5.解析(大群の形成):大群の形成時期と場所を特定し,形成原因を探る.
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次年度使用額が生じた理由 |
使用額の主体を占めるセスナチャーター費が,調査飛行を順調に行うことができたために,予定額より低かったため.
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次年度使用額の使用計画 |
セスナチャーター費として使用する.飛行中の海霧の発生など予期しないできごとによる飛行時間の延長に備える
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