研究実績の概要 |
沿岸性鯨類スナメリは個体数減少が懸念されている.本研究の目的はスナメリの九十九里~鹿島灘個体群を対象として,個体群構造を明らかにし,個体群動態の面でのその健全性を評価することである. 2018年6月と9月に4人乗りセスナからの目視調査を千葉県山武市から茨城県鹿嶋市までの沿岸海域で行った.離岸距離15km以内〈水深ほぼ50m以浅)で岸にほぼ平行な飛行コースを設定した.スナメリの群れを発見すると群れサイズを計数した.また親子連れを親子小(親とその体長の70%未満の新生子),親子大(70%以上の1歳子)に区分した. 6月と9月の調査ではそれぞれ363, 371kmの飛行から総発見頭数はそれぞれ107頭,63頭,新生子発見頭数はそれぞれ4頭,1頭であった.親子がどうかが不明であった群れの発見を除いて求めた新生子割合は6月で3.8%,9月で1.8%あった.新生子発見の水深は6月と9月でそれぞれそれぞれ水深10-20m,10-15m,その離岸距離はそれぞれ10km以内,2km以内とやや岸寄りであった. 本個体群の出産は3月にすでに始まり,盛期は5-7月と考えられている.2018年6月の新生子割合は,期待値より低かったが,2016年6月や2017年5月も低い値となっており異常ではなかった.9月の新生子割合の情報を最終年度に初めて得たが,予想通り,子は生まれているものの盛期を過ぎていることが伺えた. 2015-16年の7月には計4つの大群(25-73頭)が出現し,大群内の新生子の全数確認は行えなかった.このため,新生子割合は予備的な推定となっている.この割合は10%を上回ることはなかった.対象海域とりわけ発見の多い利根川周辺ではにごりが強いことがあり,新生子見落としが生じ,新生子の割合から得る出生率を過小評価している可能性がある.
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