研究課題/領域番号 |
15K07544
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野畑 重教 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (00526890)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サケ / 母川回帰 / 性成熟 |
研究実績の概要 |
北日本沿岸に回帰したサケの河川遡上行動について超音波受信器を用いて調べた。調査地点は岩手県大槌湾、調査期間は2016年11~12月で、湾央の定置網で捕獲された個体に発信器を装着後に放流し、湾内17箇所に設置した受信器での受信記録から行動を推定した。行動の詳細については現在解析中であるが、昨年度までに放流した全ての個体の成熟度を、放流時の血中17,20β-ジヒドロキシ-4 -プレグネン-3-オン(DHP)濃度を最終成熟の指標として推定した。その結果、成熟度と行動パターンに相関は見られなかった。しかし、大槌湾に注ぐ河川に入った個体については、DHP濃度が低い個体(最終成熟を迎えていない個体)では、放流から河川移行までの時間が長いことがわかった。また、DHP濃度を放流時と河川での再捕獲時とで比較すると、再捕獲時に高い値を示していた。以上の結果から、繁殖の準備が整う最終成熟が、サケの河川への移行のタイミングに関わることが示唆された。水槽実験の結果からDHP濃度のピーク後に塩分耐性を失うことから、DHP濃度と河川移行のタイミングの相関は、塩分耐性と関わることが考えられる。 北上川は、三陸沿岸に注ぐ河川の中では例外的にサケの遡上距離の長い河川である。また10月初旬に三陸の河川に遡上する個体群は、北海道から移入された経緯を持ち、前期群として区別される。これらの個体群について、河川に遡上した個体の成熟度を観ると、三陸遡上群と異なり最終成熟を迎えていなかった。これは河川遡上中に徐々に成熟する北海道の個体群と同じである。 以上のことから、最終成熟を迎えてから河川に遡上する形態は、河口から産卵場所までの距離の短い三陸個体群に特異的なものであると推察される。成熟度と河川移行のタイミングは、産卵場所の違いによる遡上形態の違いと関わっているものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
性成熟と遡上のタイミングに関しては良好に進捗したと考えている。一方で海水適応能の喪失と遡上との関連についてはやや遅れている。本来は塩分調節に関わるエラでのNa+,K+,ATPase(NKA)発現と遡上について進める予定であったが、同定したNKAの2つの分子種の抗体による免疫染色の検討が進んでいないことが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
遡上のタイミングと性成熟については関連性が見えてきたので、今後は塩分耐性との関連について重点的に研究を進める。NKAの分子種の同定はすでに終わっており、今後はリアルタイムPCRによる発現動態とNKA活性との関連を調べる。それにより発現解析の結果と行動との関連を明らかにする。同時にエラの免疫染色についてもさらに条件検討を進め、エラでのNKA発現と遡上の関連について、分子生物および組織学的解析の両面から進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の進捗のようにエラの免疫染色の検討が芳しくなく、実際のサンプルを染色するまでに至らなかったため、その分の試薬購入がなかった。また超音波ピンガーの回収率が高かったため昨年度分については新たに購入する必要性がなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の免疫染色の系を確立し、早急にエラの解析を行う。また今冬分のピンガーの購入に充てる。
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