本研究は、環境省レッドリストの「絶滅のおそれのある地域個体群」である琵琶湖の日本在来コイについて、その非繁殖期(秋から冬)における生活をバイオロギングの手法により明らかにすることを目的とする。琵琶湖のコイは春から夏に沿岸の水草帯で産卵するが、その後、在来コイは沿岸域では見られなくなる。冬期も沿岸域にとどまる導入コイ(大陸に由来)とは異なるこのような生態は、琵琶湖における在来コイ存続の一因と考えられるが、秋冬の沖合における生活の様子は全く不明である。本研究では、在来コイの適切な保全につなげるため、この時期の生息深度や遊泳行動を、個体ベースで解明する。 解析に用いるコイは、春から夏に沿岸域で捕獲し、DNAマーカーで在来度(導入コイとの交雑度)を確認して放流まで畜養池で休ませた。データロガーは、水深、水温、速度、3軸加速度を記録するものを用い、放流から5日後に自動で魚体から切り離されたものを回収した。放流は非繁殖期の秋と冬に一度ずつ行った。在来コイ(導入コイとの交雑程度が低いもの)1個体と導入コイ1個体を同時に琵琶湖中央部の同地点から放流したが、2年目以降は畜養池の不調等により在来コイを供試できず、導入コイのみの放流となった。 当初の研究計画では、3年間で在来6個体、導入6個体のデータを得る計画であったが、上の経緯やロガーの回収不成功等により、追加放流を含めても在来2個体、導入9個体のデータ取得となった(なお、最終年度は6個体放流したが3個体分しかロガーを回収できなかった)。 限られた個体数ではあるが、得られた深度・運動データから以下のように推察した。在来コイは深層と表層を頻繁に行き来し、深層から浮上した後でも中性浮力を失わないが、導入コイは一度40m以深に行くと浮力を失い、湖底から浮上できない。在来コイの浮力維持能力の高さは、浮袋の気道弁が発達している点と対応していると考えた。
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