研究課題/領域番号 |
15K07549
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
淀 太我 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (00378324)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 炭素・窒素安定同位体比分析 / 河川性魚類 / 食物網 / 混合モデル |
研究実績の概要 |
三重県津市を流れる安濃川の中流域3定点において採集した環境生物および魚類サンプルについて,炭素および窒素の安定同位体比を分析した。本年度は,3定点における食物網構造の解明と雑食性魚類における餌ニッチの重複程度の把握が主題であるため,分析に供したサンプルは,魚類767個体中各地点各季節各種5個体程度を抽出した329試料と,水生無脊椎動物327試料,リター17試料,水生植物44試料である。また,分析結果について,環境生物は生産者と消費者それぞれでクラスター分析を行い,種や分類群および季節に関係無く値の近い試料を食物網上の類似群としてカテゴライズした。魚類は,季節ごとに統計検定を行って季節変化を検出し,季節変化のある場合は類似する季節ごとにカテゴライズした。そのうえで,各魚種および上記の類似群の値を用いて,IsoWebによる混合モデル分析を行い,各地点の食物網構造を量的に解析した。 生産者について,リターは季節を通してほぼ一定の値を示したが,付着藻類や糸状藻類等の水生植物は季節的な変動が大きかった。水生昆虫等の消費者は分類群や従来の摂食機能群ごとに値はまとまらず,季節によって変動したが,特定の傾向は認められなかった。魚類については,St.1のオイカワ,アユ,オウミヨシノボリでのみ季節による有意差が認められた。しかし,多くの魚種間の安定同位体比の差異は小さかった。 クラスター分析の結果,St.1においてわずかに例外があったが,原則的にリターと水生植物は異なるクラスターを形成した。消費者は分類群や摂食機能群の混在した複数のクラスターに分けられた。混合モデル分析の結果,渓流域における一般論と異なり,食物網におけるリターの貢献度は低く,主として付着藻類が食物源になっていると考えられた。また,雑食性魚類の餌ニッチはいずれも大きく重複していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
採集済み試料の分析に想定以上に時間を要した。また,当初想定していたものよりも水生昆虫等低次消費者の分類群内変動が大きく,分類群間での重複が激しく,従来の手法では食物網の理解が困難であり,試行錯誤に時間を要したことも一因である。また,雑食性魚類についても想定以上に種間での重複が大きかった。これは,食物源がリター(陸上植物)と水生植物の2起源ではなく,水生植物起源に偏った食物網であるためと考えられる。現状では,安定同位体比から見て個体モザイクが生じている状況は見て取れない。
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今後の研究の推進方策 |
個体モザイクが生じている場合に,詳細な採集を行い,追加解析を行う予定であったが,現状では本研究の調査地点において個体モザイクは生じていない可能性が高い。しかし,生じていないケースを明らかにする事も同等に重要な知見であり,平成29年度は冷凍保存されている魚類試料の分析と,消化管内容物分析を行い,個体モザイクが生じていないならばその原因について解明を行う。その場合でも,これまで知見の乏しかった日本の河川中流域における詳細な食物網の解明と,雑食性魚類を中心とした魚類の餌を巡る競合関係が明らかにすることができ,当初目的の中核については達成されるものと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同利用機器を使用した安定同位体比分析について,分析に必要な消耗品類の納品が遅延した事が主要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の計画通りに支出が発生したが,その納品と支払が遅延している状況なので,特に平成29年度の使用計画に変更は無い。最終年度なので,分析費用が次年度に遅延しないよう,早期執行を行う。
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