研究課題/領域番号 |
15K07552
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
菅 向志郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (60569185)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 魚病細菌 / 仔魚飼育 / 健苗性 |
研究実績の概要 |
魚類の細菌性疾病を予防するワクチン開発では、魚病細菌を魚類に接種する攻撃試験を実施する必要がある。安定した試験データを得るために、海水温度など様々な飼育条件を揃えても、対照区の試験魚が疾病を発症しない、もしくは発症しても死に至らず軽微な病症となる場合がある。この原因は試験に用いる種苗の健苗性の高さが影響していると推定される。この魚病細菌に抵抗性を示す健苗性は、何に起因するのか詳細は不明である。本研究は、仔魚飼育時に魚病細菌を曝露した後、その生残率から仔魚期における健苗性の数値化を最初の目的とした。平成27年度は、魚病細菌としてEdwardsiella tarda、仔魚はヒラメを用いた飼育実験を行った。まず、正確なEdwardsiella tardaの菌数を測定するため、タックマンプローブを用いたリアルタイムPCRによるEdwardsiella tardaの測定法の確立を試みた。その結果、試料からの鋳型DNAの精製法としてキレックス樹脂を用いること、設計したプライマーとタックマンプローブおよびロッシュの定量PCR試薬を用いることで安定的に測定出来ることを見出した。ヒラメ仔魚を用いた飼育実験は約1ヶ月行った。その結果、ヒラメ仔魚の体内に供試菌株が入っていること、試験区の生残率は対照区より約10%低下したが、その体長に差は無いことが明らかとなった。また、飼育終了後の飼育水中に存在する供試菌株を寒天培地で計数した結果、試験区では25 CFU/mLであったことから、飼育水中で死滅することなく生存していることを確認した。飼育終了後の試験区と対照区の仔魚は、組織切片解析用に用いるためホルマリンで固定し保存した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、①使用する魚病細菌の最適量の特定、②リアルタイムPCRを用いた細菌の計数法の確立、③ヒラメ仔魚を用いた仔魚飼育実験、④飼育終了後の仔魚を用いた組織解析、⑤民間などの種苗生産施設の飼育水槽の細菌叢検査を実施する計画であった。これら計画の①~③については、計画通り実施出来たが、仔魚飼育実験の最適化に必要な基礎的データを得るのが若干遅れたため、飼育の開始時期に遅れが生じた。このため、飼育終了後の仔魚の組織解析は、ホルマリン固定試料の作成で中断している。また、種苗生産施設の細菌叢の検査は、本飼育実験の期間中に民間の仔魚飼育が終了したため、実施出来なかった。本年度に実施予定とした今後の研究基盤となる主要な飼育実験は計画通りに実施出来ており、次年度以降に継続して飼育実験が可能な基礎的知見が得られている。時間を要する飼育実験の機器類の設定などの条件が確立できたことから、仔魚の組織解析および種苗生産施設の細菌叢の検査は、次年度以降に実施可能である目途が立っている。これらのことから、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に実施した飼育実験をもとに、曝露する魚病細菌の量を増やすことで仔魚への影響を検討すると共に、同様の方法にて数種類の魚病細菌を用いた飼育実験を実施する。これらの条件で飼育した仔魚をホルマリンで固定し、パラフィンで包埋したのち、組織切片解析による腸管粘膜組織、腎臓組織などの観察を行う。さらに、これらの仔魚よりRNAを精製し、ストレス関連および生体防御関連などの遺伝子群の発現量解析を実施する。これらの実験より、魚病細菌の仔魚へ与える影響を細胞および遺伝子レベルで解明する。本条件での仔魚飼育において、仔魚の生残率が十分高い場合、長期間の飼育へ移行し、稚魚まで育てた後、仔魚と同様の解析を実施し、細胞および遺伝子レベルでの稚魚の健苗性を解明する。また、民間などの種苗生産施設の飼育水槽の環境計測を行うと共に、細菌叢検査を実施することで、異なる種苗生産施設における魚病細菌およびその近縁種と仔魚との接触の有無を解析し、細菌叢が健苗性に与える基礎的知見の収集を試みる。
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