病原細菌による魚介類の疾病を予防するワクチン開発では、対象となる魚病細菌を魚類に接種する攻撃試験を実施する必要がある。この攻撃試験では対照区の試験魚が発症しない、もしくは発症しても死に至らず軽微な病症となる場合がある。 この原因は種苗の健苗性の高さが影響していると推定される。本研究は、仔魚飼育時に魚病細菌を曝露した後、その生残率から仔魚期における健苗性を数値化することを目的とした。これまでに、攻撃試験に用いる魚病細菌を正確に計測する定量PCRを用いた手法を開発した。しかし、この定量PCRでは、予測される菌数より低い数値が得られることがあり、算出した菌数にズレが生じていた。この相違について、3種類のDNA精製法を用いて検討した結果、通常使用されるシリカ膜によるDNA精製法では菌数が約1桁低い値となり、キレックス樹脂による精製法は大きな誤差は生じないことが明らかとなった。この精製を用いて魚病細菌に曝露した仔魚の保菌数を定量した結果、仔魚1尾当たりの魚病細菌の最大保菌数は、10^7、10^8の細菌を添加するとそれぞれ約10^3であった。仔魚飼育終了時の生残率は、10^7添加では対照区で92%、細菌曝露区で82%、10^8添加ではそれぞれ75%、54%であった。それぞれの試験区の仔魚をホルマリンで固定し、腸管の組織切片を作製後、顕微鏡で撮影した画像より腸管断面の外周に対する内周の比率を算出した。この結果、対照区と細菌曝露区において、仔魚腸管断面の内外周の比率に有意差は無かった。また、腸管断面には炎症反応は確認できなかった。これらの結果より、本実験の飼育条件において用いた魚病細菌は仔魚に強い毒性を示さないことが明らかとなった。
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