サケ人工ふ化放流を担う孵化場の多くは、予め定められた計画尾数の適正サイズの稚魚を、限られた少ない水量で飼育せざるを得ず、高密度飼育を余儀なくされている。高密度飼育は、稚魚に生理的ストレスを与え、免疫機能を低下させ、原虫病等の病気の発症を誘発する。原虫病の発症は、稚魚の健康阻害や放流後の生残率低下を招き、秋サケ資源減少の1つの要因である可能性が指摘されている。この問題を解決するためには、高密度ストレスを解消し、原虫病を抑制する技術の開発が急務である。これまで予備試験を通して、植物油等に高密度ストレス解消と原虫病進行の抑制、両作用がある可能性を示した。 平成29年度は、植物の種子油添加飼料を用いた稚魚の原虫病抑制技術の開発を目的とし、原虫病の抑制に最も大きな効果を示す植物油の種類、市販飼料への添加率、給与期間を調べた。原虫寄生の経験のない稚魚に、亜麻仁油、綿実油、植物油の対照としての魚油を1~3%各濃度で添加した配合飼料を0~14日間予防給餌した後、給餌を継続したまま28日間の鞭毛虫イクチオボド、繊毛虫トリコジナを混合感染させた。その結果、全ての油脂添加飼料の予防給餌により、両原虫の寄生は有意に抑制された。これらの油脂のうち亜麻仁油添加飼料の給餌が最も両原虫の寄生を抑制し、特に飼料への添加濃度が2%の時、その抑制効果が最大となった。また、この抑制効果は予防給餌を7日以上行った時に有意に高く、14日間給餌した時に最大の効果を示した。以上の結果から、検索した中では、7日間以上の亜麻仁油2%添加飼料の給餌が、サケ稚魚の原虫病抑制技術として、最も有効な手段であると考えられた。
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