研究課題/領域番号 |
15K07569
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長 由扶子 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60323086)
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研究分担者 |
日出間 志寿 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30241558)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 麻痺性貝毒生合成酵素 / 発現解析 / リアルタイムPCR / 抗ペプチド抗体 / 免疫染色 / ELISA / LC-MS/MS / クローニング |
研究実績の概要 |
1.【sxtA4遺伝子及びタンパク発現量比較】本研究では世界的にも貴重な有毒渦鞭毛藻同一細胞由来の有毒―無毒株のペアを用いて麻痺性貝毒生合成に関与することの推定されている遺伝子及びたんぱく発現を比較した。その結果mRNAの発現量がsxtA4は無毒株において有毒株より1万分の1程度であるのに対し、sxtG及びsahhはそのような差が見られないことが明らかとなった。さらに抗SxtA4ペプチド抗体によるELISAと免疫染色の結果から無毒株ではSxtA4タンパク発現が著しく低下していることが明らかとなった。したがって無毒株ではSxtAの触媒する反応生成物である初期中間体Int-A’が生成せずひいては麻痺性貝毒が生合成されないという仮説が支持された。なお推定麻痺性貝毒生合成酵素のELISA及び免疫染色は世界ではじめての例であり、本手法によりセルベースでの酵素発現を指標とした生合成調節の分子機構解析へと展開が期待される。 2.【SxtA遺伝子のクローニング】SxtA遺伝子は全長4.5 k bpの大きな遺伝子であり、全長PCR産物のサブクローニングが困難であったため内部配列でのプライマーを用いて部分配列を増幅して結合させることとした。現在までにドメイン1とドメイン4のPCR産物を得ることに成功している。 3.【微量類縁体12-deoxy-dcSTXのLC-MS/MS分析法の確立】 有毒株と無毒株の比較研究においてこれまで渦鞭毛藻では検出された例のない微量類縁体12-deoxy-dcSTXを発見した。12位の立体異性体の分離を可能とする微量定量分析方法がなかったため、新たにカラムスイッチングによるHILIC-LC-MS/MS分析法を確立した。有毒株及び同属の他の有毒種2株で12-deoxy-dcSTXを検出し、無毒株では検出されないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の27年度計画のうち二項目が予定通り進行しており、さらにそのうち一項目に関連して29年度に計画していた項目を前倒しで行い予期していなかった知見が得られた。残り一項目は予定変更となったが、新たな展開が期待できるため、おおむね順調と判断した。 1.【SxtA4発現解析】遺伝子発現及びタンパク発現について無毒株で著しい低下を示したという結果を得た。したがって無毒株を無毒化させている原因についての仮説が支持された。なお麻痺性貝毒生合成酵素のELISA及び免疫染色は世界ではじめての成功例である。これにより本酵素が細胞内で特定のオルガネラに局在している可能性が示唆された。この成果は国内学会において報告した。従来見出されている栄養条件、光条件など培養環境変化に応じた麻痺性貝毒生合成速度の変化を説明する細胞内分子機構の解析へと展開が期待される。 2.【遺伝子クローニング】全長でのクローニングは困難ではあったが、部分長の取得が進行しており今後その配列を元にクローニングが可能と思われる。 3.【麻痺性貝毒類縁体の分析】渦鞭毛藻ではじめてとなる微量な類縁体の検出により不明のままの生合成及び代謝経路に新たなステップを提唱することができた。この成果は国際学会にて発表し、国際学術雑誌に掲載された。また本化合物の分析法を渦鞭毛藻における麻痺性貝毒の生合成中間体及び麻痺性貝毒既知類縁体の一斉分析法へと応用可能であることが示唆され、現在一斉定量法としての妥当性を検証している。 当初は29年度に予定していた免疫染色を先に行い、予期しない知見が得られたためそちらの解析を優先し、27年度に計画したマイクロインジェクションの予備実験については実施を見送った。
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今後の研究の推進方策 |
【1.SxtAの局在と麻痺性貝毒生合成調節との関連性】細胞内オルガネラの染色試薬を用いてSxtAの免疫染色により染色されるオルガネラを追求する。また経時的にサンプリングした有毒株と無毒株を免疫染色に供し、培養周期の毒生産期とSxtAタンパクの発現がリンクしているかどうかを調べる。無毒株でどの時期においても発現が著しく低いかどうかを確認する。 【2.SxtAリコンビナントタンパクの調製】SxtAのドメイン1と4の部分配列から新たなプライマーを設計し、未解析の部分のPCR産物を得る。得られた配列情報を元にin fusion cloningにより全長を構築する。発現ベクターに組み込み大腸菌、酵母などの異種発現系を用いてリコンビナントタンパクを調製する。 【3.In vitro実験によるSxtAタンパクの機能解析】リコンビナントSxtAあるいは天然SxtAを無毒株の粗抽出液とインキュベートすることで中間体Int-A'が生成することを確認する。なお天然のSxtAはSxtA4ペプチド抗体を結合したアフィニティビーズを用いて精製する。中間体Int-A'は生合成初期の生成物であり粗抽出液に含まれる他の酵素反応の基質となって消失する可能性があるので、その場合はすでに麻痺性貝毒生合成を抑制することのわかっている代謝阻害剤を用いてInt-A'の蓄積量をあげて検出する。また塩基配列で変異の見られた部位を置換したリコンビナントタンパクを調製してその変異と活性の関連を調べる。 【4.SxtA発現調節のIn vitroでの証明】決定した有毒株及び無毒株のsxtA遺伝子塩基配列情報からin vitro transcriptionにより野生型(sxtA-mRNA/tx-3'UTR)と変異型(sxtAmRNA/ntx-3'UTR)を誘導し、発現量と安定性を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
渦鞭毛藻の免疫染色は実施例が少なく、例があってもパラフィン包埋後の切片を用いて行われていた。そこで抗SxtA4ペプチド抗体を用いた免疫染色は当初の計画では予試験を重ねたあとの最終年度に予定していたが、透過性処理を行えば染色可能であることがわかり予想以上に進展した。麻痺性貝毒の生合成酵素を免疫染色で解析した例はなく、この成果をさらに発展させることが麻痺性貝毒生合成調節の機構解明に非常に有用であると考え、優先させた。また免疫染色の結果からSxtAタンパクの細胞内局在が示唆され、その解明をいそぐ必要があると思われた。そのためマイクロインジェクションの装置購入を見合わせ、その費用として予定していた額を払い出さなかった。そこから優先させた免疫染色に必要な物品費を除いた額を次年度使用することになった。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな展開のために必要な細胞内オルガネラの特定用蛍光試薬、培養器具、マルチウェルプレートなどの生化学実験試薬および消耗品、共焦点レーザー顕微鏡観察用消耗品や高速液体クロマトグラフィー質量分析用の有機化学実験試薬および消耗品、分子生物学的研究試薬および消耗品、合成オリゴ、ペプチド、抗体などの受託費用、画像解析用PCおよび周辺機器の購入のため使用する。
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