ヒラメやカレイなど異体類は、いったん左右対称な仔魚として発生した後、変態期に左右非対称な成魚の体制へと劇的に変化する。本研究では、次世代シーケンサーを用いた遺伝子発現プロファイル解析により、変態初期の眼上棒状軟骨周辺の微細組織サンプルと、変態後期・着底後仔魚の皮膚および筋肉サンプルの2つのサンプルについて、有眼側と無眼側で発現強度が異なる遺伝子を網羅的に単離した。次世代シーケンサーによるデータのバイオインフォマティクス解析によるドライなデータを、ウェットな実験(RT-PCRおよびin situ hybridization)により検証を行った。 変態初期の眼上棒状軟骨サンプルについては、候補遺伝子の左右非対称な発現をRT-PCRで確認することはできたが、切片in stu hybridizationで組織発現を確認できた遺伝子は1つだけであった。この遺伝子は、候補遺伝子の中で発現強度が最も強かった遺伝子であり、他の候補遺伝子でシグナルが観察されなかったのは切片in situ hybridizationの検出限界による可能性が考えられた。検出感度を上げるために、サンプルの固定条件や、シグナル検出の感度増幅システムなど条件検討を行った。 変態後期のサンプルについては、約半数の遺伝子は色素胞分化への関与が他の生物で知られている遺伝子であった。これらの中には、これまでに色素胞分化の解析にあまり使われてこなかったが、発現が強く、色素胞分化のマーカー遺伝子になりそうなものも複数含まれていた。色素胞分化は、ヒラメの種苗生産で重要な課題の一つであるが、これら候補遺伝子の幾つかは、体色異常が顕在化する前の領域においても発現が観察され、体色異常を解析するマーカーとして有用であることが示された。
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