宮城県のサクラマスなどの一部の太平洋サケが、従来知られているものよりも約半年早い0年魚時の秋にスモルト化(秋スモルト)する機構を明らかにするため、大原川(秋スモルト)と伊里前川(春スモルト)の2つの系群を同一飼育条件下で孵化時より飼育した。その結果、秋スモルト系群では秋に、春スモルトでは春に甲状腺ホルモンなどのスモルト化促進ホルモンの血中量が増加する傾向があることが判り、両者は同一の機構によって異なる時期にスモルト化している可能性が示された。大原川系群は伊里前川系群よりも体成長が良かったことから、成長の良否が多型の出現に影響している可能性も示された。オレゴン州立大学において、秋にスモルト化するマスノスケのスモルト化の機構を調べるため、水温の変化(上昇・低下)に対する熱ショックタンパク質(HSP70)の発現動態を調べたところ、肝臓と鰓のHSP70の遺伝子発現が水温の上昇・低下に伴ってそれぞれ増加と減少の応答を示した。またこれらの実験群ではスモルト促進因子であるコルチゾルの血中量が水温の上昇・低下に伴って増加したことから、水温の変化が秋スモルトの誘起に関与することが示された。最後に、サクラマスの秋スモルト種苗を効率的に生産する方法を開発するため、殆どの個体が春にスモルト化する伊里前川系群の種苗を水槽内での遊泳層(表層・底層)に基づいて2群に分類して1年間、飼育した。その結果、表層群の個体は底層群よりも体サイズが大きく体側のパーマークが少なく、より早い段階で体表の銀白化するといったスモルト化の特徴が見られ、遊泳層による選別の有効性が示された。
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