研究課題/領域番号 |
15K07575
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田川 正朋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20226947)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ストレス / コルチゾル / 無眼側黒化 / 着色型黒化 / 網敷き飼育 / ヒラメ / MSH受容体 / 体型正常化 |
研究実績の概要 |
カレイ類では、放流や養殖のための稚魚を生産する際に、天然魚とは異なる色や形になってしまう形態異常個体が高率で出現し、栽培漁業や養殖のための重大な障害となっている。一方、経験的にストレスは種苗生産における形態異常に悪影響を及ぼすことが知られている。昨年度までの研究により、ストレスによって分泌が促進されるホルモンであるコルチゾルが、飼育環境下のカレイ類に見られる形態異常の直接原因の一つであると確認できた。そこで本年度は着色型黒化の部域差という生理学的な側面と、現実の養殖現場での応用の側面から、以下の点について検討を行った。 1)着色型黒化の部域差を起こす要因: 他の異体類における先行研究より、脊椎動物の背腹方向の体色差に中心的な役割を果たすアグチタンパクが、異体類の有眼側・無眼側の体色差に重要と考えられていた。しかし、ヒラメの着色型黒化においては、アグチタンパクではなく色素胞の調節ホルモンであるMSHやMCHの受容体の発現量が、黒化発現の部域差に重要であることが明らかとなった。 2) 網敷き水槽による着色型黒化の防除: 昨年度までの結果にもとづき、網敷き水槽による着色型黒化の防除効果を着色型黒化の発現する前のヒラメ稚魚について検討した。網敷き水槽においては着色型黒化の面積は約1/40にまで減少し、一見天然魚と区別できないほどきれいな稚魚を生産することが実験水槽レベルで確認できた。この稚魚では無眼側胸鰭周辺部にのみ黒化部位が発現していたが、胸鰭の切除や目合いの大きな網の使用によって胸鰭周辺の黒化についても軽減できる見通しがついた。様々な魚種の人工生産魚では、「寸詰まり」と表現される胴部の短い個体となる現象が広く知られている。網敷き飼育では成長はやや遅れるものの、体のプロポーションが天然魚に近づくことも本年度の研究より明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飼育水槽に網を敷く方法は再現性が高いだけでなく効果も非常に強いため、種苗生産現場の研究者からも高い評価を得ている。ヒラメ以外の異体類でも予備的な検討を行ったところ、同様の効果が確認できており、他の異体類への応用にも手応えを感じている。一方、基礎生物学的な観点からの研究では、鱗の培養が確立できていないものの、色素胞関連ホルモンの受容体遺伝子の研究から、着実に黒化発現機構に迫りつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
全体としてみた場合、特に方針に大きな変更や修正すべき点はない。ただし、鱗の培養系を確立できる見通しが立たないため、より現場での応用を指向した研究を行うことにする。前述したが、網敷き飼育には体色異常の防除のみならず体型の改善効果も見られているため、この点を再確認するとともに、大規模水槽への応用法を模索する。また、他の異体類における網敷き飼育の効果も確認し、現場で広く応用できる技術へと高めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
鱗の培養実験を中止したため、その分の試薬や消耗品類が少なくて済んだ。
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