カレイ類では、放流や養殖のための稚魚を生産する際に、天然魚とは異なる色や形になってしまう形態異常個体が高率で出現し、栽培漁業や養殖のための重大な障害となっている。昨年度までの研究により、ストレスによって分泌が促進されるホルモンであるコルチゾルが、飼育環境下のカレイ類に見られる着色型黒化の直接原因の一つであると確認できた。また、水槽に網を敷くことで着色型黒化を強力に防除できることなどを再現性良く確認できている。さらに、より大きな水槽における網敷き飼育による着色型黒化の防除効果などを検討した結果、網敷き飼育は予想以上に強い着色型黒化の抑制効果を持つことが明らかになっていた。 そこで、本年度は研究期間延長を申請し、なぜ網敷飼育が有効かをストレスの観点から論じることを目的とし、網敷き飼育ヒラメ稚魚における血中コルチゾル濃度を測定した。網敷き飼育によって無眼側の黒化面積率がほぼ5%程度に抑制された稚魚と、平底飼育により黒化面積率が50%程度となった個体との間には、血中コルチゾル濃度には有意差は認められなかった。また、両区とも黒化面積率と血中コルチゾル濃度には有意な相関関係は見られなかった。これには、採血を行った飼育開始後6か月の時点では黒化部位の拡大が鈍化していたためである可能性もあるが、網敷飼育はストレスの緩和によるコルチゾル濃度の低下を介さずに、黒化の拡大を抑制していることを強く示唆する結果となった。
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