研究課題/領域番号 |
15K07577
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浅川 学 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (60243606)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 石垣島 / マクリ / 双翅目昆虫 / セトウミユスリカ / 誘因現象 / カイノイド / 高速液体クロマトグラフィー / セスジユスリカ |
研究実績の概要 |
前年度、沖縄県石垣島リーフに自生する紅藻類マクリDigenea simplexに誘引される双翅目昆虫が、セトウミユスリカ Clunio setoensis と同定されたことから、この特異的な誘因現象をセトウミユスリカの生態、器官の構造と誘引物質の観点から検討した。セトウミユスリカは、口が退化していることから、マクリを直接摂取する可能性は考え難いが、“舐める”あるいは“吸い取る”とすれば、マクリが含有する水溶性成分がセトウミユスリカを誘引する可能性は考えられる。そこで、マクリから興奮性神経活性を有する水溶性カイノイドの精製を試みた。はじめにマクリ乾燥藻体粉末を10倍容の蒸留水中で24時間撹拌・抽出し、水溶性成分を得た。得られた抽出液は、透析チューブ(3000 dalton cut off)により透析し、透析外液を活性炭カラムに付し、水洗後、酢酸酸性MeOHによりカイノイド画分を得た。次いで、ウルトラパックODSカラム(φ26×300 mm、Yamazen)を用い、1% 酢酸-5%アセトニトリルにて、水溶性カイノイド類の分取精製を行った。最後に得られた各画分に含まれる水溶性カイノイド類の組成をLiChroCART 125-4カラム(Purospher RP-18e、Merck)を用いる高速液体クロマトグラフィーによって分析した。以上により精製・単離される成分について、双翅目昆虫誘因現象を実験室レベルで再現・検証した。すなわち、モデル生物として人工繁殖が容易なセスジユスリカ Chironmus yoshimatsuiを用い、ガラスシャーレに脱脂綿(角形)を置き、蒸留水および濃度調整したカイノイドを含ませ、さらに、(一時的に麻酔いした)セスジユスリカを入れ、数日間観察した。その結果、その生物活性は低かったがセスジユスリカがカイノイドに誘引される現象を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は、紅藻類マクリDigenea simplexへの双翅目昆虫セトウミユスリカ Clunio setoensisの誘因現象を誘因活性物質の化学構造などの諸性状の解明を踏まえて明らかにし、衛生害虫の誘殺駆除剤を開発するための基礎データを入手することである。以下、本年度得られた研究成果から、研究の進捗状況をおおむね順調に進展していると判断した。セトウミユスリカの生態、器官の構造と誘引物質の検討結果から、この特異的誘因現象にマクリが含有する水溶性カイノイド類の関与が示唆されたため、本海藻からの興奮性神経活性を有する水溶性カイノイドの精製・単離を試みた。すなわち、マクリ乾燥藻体粉末を蒸留水を用いて撹拌抽出し、水溶性成分を得た。得られた抽出液は、透析チューブ(3000 dalton cut off)により透析し、透析外液を活性炭カラムに付し、水洗後、酢酸酸性MeOHによりカイノイド含有画分を得た。次いで、ウルトラパックODSカラム(φ26×300 mm、Yamazen)を用い、1% 酢酸-5% アセトニトリルにて、水溶性カイノイドの分取精製を行った。得られた各画分に含まれる水溶性カイノイドの組成はLiChroCART 125-4カラム(Purospher RP-18e、Merck)を用いる高速液体クロマトグラフィーによって分析した。一方、精製・単離される成分について、セトウミユスリカに代わり人工繁殖が可能なセスジユスリカ Chironmus yoshimatsuiを用い、双翅目昆虫誘因現象を実験室レベルで検証した。その結果、一部、検討の余地は残るものの、カイノイドがこの特異的誘引現象に関与することが考えられた。また、双翅目昆虫の誘因現象を調べるため、セスジユスリカを用いる実験系を構築したことにより、今後、本誘引物質のスクリーニングが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目において沖縄県石垣島沿岸のリーフに自生する紅藻類マクリDigenea simplexへの双翅目昆虫の特異的誘因現象を調べるためにセトウミユスリカ Clunio setoensisに代わり人工繁殖が可能なセスジユスリカChironmus yoshimatsuiを用いる実験系がある程度確立できたことにより、本海藻に含まれる誘引物質のスクリーニングが可能となり、今後、抽出・精製される水溶性カイノイド類の誘因活性を詳細に調べることが可能となった。最終年度は、この実験系を用いて、誘因活性物質の諸性状の解明を、特に、その化学構造や生物活性に関する側面から推進し、衛生害虫の誘殺駆除剤を開発するための基礎データを入手することを目的とする。上記研究目的を達成するために誘因活性物質の化学構造をLC-MS/MSならびにNMRを駆使して詳細に調べ、特に、構造活性相関の側面からも検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
機器分析用試薬購入を目的とする物品費としての残額である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、精製・単離した活性成分の化学構造を検討するために、機器分析を行う機会が増えることが予想されるため、機器分析用試薬購入を目的とする物品費としての使用を予定している。
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