研究実績の概要 |
干潮時、露出する沖縄県石垣島沿岸のリーフに分布する紅藻類マクリDigenea simplexに特異的に誘引される双翅目昆虫が、セトウミユスリカ Clunio setoensis と同定されたため、この特異な誘引現象について、セトウウミユスリカの生態、器官の構造と誘引物質の関わりについて前年度に引き続き検討した。セトウミユスリカの口は退化していることから、 “舐める(吸い取る)”を考えたとき、誘引現象を引き起こす因子の1つとして本海藻の特徴的な遊離アミノ酸組成、即ち、カイニン酸(興奮性神経活性アミノ酸)を主成分とする特徴的なアミノ酸組成が考えられた。そこで、マクリから水溶性カイノイドの精製を試みた。はじめにマクリ乾燥藻体粉末を10倍容の蒸留水中で24時間撹拌・抽出し、得られた抽出液を透析チューブにより透析した後、透析外液を活性炭カラムに付し、水洗後、酢酸酸性MeOHによりアミノ酸画分を得た。次いで、ODSカラムを用い、1%酢酸-5%アセトニトリルにて、カイニン酸骨格を有するカイノイドを分取するとともに、得られた各画分に含まれるカイノイドの組成を高速液体クロマトグラフィーおよびアミノ酸アナライザーによって分析した。さらに、本法により得られるカイノイドについて、モデル生物として人工繁殖が容易なセスジユスリカ Chironmus yoshimatsuiを用い、誘引現象を実験室レベルで検証した。即ち、蒸留水およびカイノイドを含ませた脱脂綿球を等間隔になるように置いたガラスシャーレに、(一時的に麻酔した)セスジユスリカ(♀)を入れ、数日観察することにより誘引現象の再現を試みたところ、明瞭ではなかったが誘引現象を示唆する結果が得られた。加えて、誘引現象を簡易的に調べるため,人工繁殖が可能なセスジユスリカを用いる実験系を構築したことにより、今後の誘引物質のスクリーニングが可能となった。
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