研究課題/領域番号 |
15K07580
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小田 達也 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (60145307)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 赤潮 / プランクトン / 微細藻類 / 毒性 / シャットネラ / 活性酸素 / 糖被膜 / ラフィド藻類 |
研究実績の概要 |
シャットネラは微細藻類の一種であり、ラフィド藻類に分類されている。シャットネラは強い魚毒性が知られており、日本で頻発する赤潮の原因有害赤潮プランクトン種である。これまでの本研究室での解析から、シャットネラは高レベルの活性酸素を通常の培養条件下において常に産生する特性を有することを見出している。また、シャットネラは強固な細胞壁を持たず、セルロースを主体とした殻構造も無いが、細胞表層は粘性多糖体である糖被膜(グリコキャリックス)で覆われており、この部分に活性酸素産生酵素系が局在する事、糖被膜はシャットネラが魚鰓を通過する際、細胞本体から離脱し、鰓表面に付着する事から、活性酸素を介した魚毒性機構及び糖被膜の魚毒性関与の可能性が示唆されている。しかしながら、その魚毒性機構の詳細、植物プランクトンであるシャットネラの活性酸素産生機構やその生化学的意義については未だ不明である。これらの点を解明することを目的として、本研究では糖被膜に存在する酵素蛋白質、さらに、未だ実態が不明な粘性多糖体について多面的に解析を継続している。前年度での研究により1985年に鹿児島湾で分離され、それ以後研究室で継代培養されているシャットネラ株と2010年に島原半島で分離されたシャットネラ株では魚毒性が著しく異なり、島原株は活性酸素産生能が高く、より強い魚毒性を示す事を見出している。一方、多くの赤潮プランクトンの毒性因子として知られている溶血毒素に関して両株で解析した結果、両株とも顕著な溶血活性は検出されなかった。当初、糖被膜に溶血活性の存在を推定したが、その可能性はこれまでの研究では否定的である。シャットネラ種以外の有害有毒赤潮プランクトン数種での解析では溶血活性が検出された事から、シャットネラの特異な毒性機構、特に活性酸素の関与の重要性が推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの研究により、2010年に島原半島で分離されたC. antiquaと1985年に鹿児島湾で分離され、その後本研究室の培養装置内で継代培養されたC. marinaの魚毒性は大きく異なり、C. marinaに比べC. antiquaはより強い魚毒性を示すことを見出している。両シャットネラ種の活性酸素産生やその他の推定される毒性因子の多面的比較検討を継続している。前年度における解析では、C. marinaに比べ明らかにC. antiquaがより強い活性酸素産生能を示していたが、本年度における比較研究ではほぼ同程度の活性を示す結果が得られている。C. antiquaもC. marinaと同様、自然界から分離されてすでに5年以上経過している事から、人工的環境下での継続的培養により、その活性酸素産活性も低下してきたと推定される。この事はシャットネラ種の活性酸素産生の生物学的意義を考える上で重要な知見と考えられる。 一方、有害有毒赤潮プランクトン数種の毒性因子として知られている、溶血毒素の有無について両シャットネラ株について調べた結果、いずれの株においても溶血活性は検出されなかった。同時期の解析ではシャットネラ種以外の有害有毒赤潮プランクトン数種において顕著な溶血活性が検出された。従って、シャットネラ種は他の赤潮プランクトン種とは異なる特異的毒性機構を有すると推定された。さらに、シャットネラ以外の赤潮プランクトン種の活性酸素産生レベルはシャットネラに比べ著しく低かった事から、活性酸素産生はシャットネラに特異的生物学的特徴と推定された。
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今後の研究の推進方策 |
C. marinaとC. antiquaの細胞表層に存在する糖被膜に着目し、特に糖被膜の主要な構成分子とされている粘性多糖体について生化学的解析を実施する。これまでの研究で糖被膜には糖類が存在しており、特定のレクチンとの反応性が検出されたとの報告以外にはあまり知見が無い。しかしながら、糖被膜はシャットネラの魚毒性に関与する重要な部分と推定される他、新規生理活性多糖体としての側面が発見できる可能性を秘めている。従って、シャットネラ糖被膜由来多糖体或は複合多糖体の生理活性について細胞レベルでの解析を実施する予定である。これまで本申請者は海藻由来多糖体の抗腫瘍作用や免疫賦活作用、さらにマクロファージからの炎症性因子産生誘導活性に関する多くの研究に取り組んできた実績を有している。その経験を活用してシャットネラ糖被膜由来多糖体の生体に対する影響について解析し、シャットネラの新たな魚毒性因子の発見を目指す。
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