研究課題
本研究では「フグは脳内報酬系の支配によってフグ毒(TTX)を取り込む」という仮説を立て,無毒の人工トラフグ種苗を主な材料に,分子生物学と組織化学の手法を駆使してこの仮説の証明に挑戦する。まず無毒のトラフグ人工種苗(体長4.4㎝)120尾を20尾ずつの6群に分けて,通常の飼料を給餌する3群と,TTXをスプレーしたTTX含有飼料(3.3 MU/g feed)を給餌する3群を設けた。それぞれ28日間給餌し,この間の給餌量や体長・体重の経時変化をモニターし,摂餌量と成長量の変化を定量した。その結果,飼育した120尾は全て実験最終日まで生残し,TTX給餌群の個体には天然稚魚よりも高濃度のTTX(33MU/尾)を蓄積していた。しかし,飼料中のTTXの有無は魚体の成長(体長8.0㎝)や肝比重,尾鰭欠損などのコンディションに全く影響を与えなかった。これらの標本については,現在食欲関連ペプチドの解析を実施している。次に,同様の手法で無毒の人工種苗に対して,1)空腹状態と飽食状態,2)TTXを嗅覚で感知させた個体とそうでない個体,3)TTXを筋肉注射するものと生理食塩水を注射する個体,4)空腹,通常の飼料で飽食,TTX含有飼料で飽食,TTXを筋肉注射した個体,を設け,これらに使用した個体のそれぞれの脳を摘出して一部を凍結保存,また,一部をブアン液により固定した。固定標本について,食欲ホルモンであるニューロペプチドY(NPY)抗体による免疫組織化学染色を施して,NPY発現の多寡の比較を試みたが,抗体に対する陽性反応がいずれの標本からも得られなかった。
3: やや遅れている
まず,フグ毒含有飼料給餌実験では,高濃度のフグ毒蓄積が魚体とそのコンディションに全く負の影響を与えないことを確認することが出来た。当初予定した期間(5日間)より遙かに長い4週間に及ぶ飼育実験の結果であることから,この成果は重要な知見であると考える。しかしながら,フグ毒による摂餌誘引や食欲促進を証明するには至らなかった。このことは対照飼料が市販のトラフグ飼育に汎用される商品であり,もともとの飼料性能が高かったことに起因すると考えられる。当初予定した実験そのものは完遂することが出来たが,実験計画に載せた抗体によるNPYの検出が出来なかった。これは,トラフグのNPYの構造の特異性が高いためであると考えられた。飼育実験および標本の確保は十分に出来たが,上記の通り,当初計画より遅れた箇所があるためにやや遅れていると判断した。
本年度も実施する実験計画は当初予定通りとする。しかしながら,昨年度に作業仮説通りに進められなかった点を下記のように改善して臨むこととする。まず,フグ毒含有飼料給餌実験に使用する飼料を,市販の魚粉ベースのものではなく,摂餌誘引物質の確認に使用されるカゼインベースの飼料を作成し,これにTTXをスプレーすることで対応したい。現時点ではプロトタイプ飼料を作成し,魚が摂餌をすることを確認している。また,NPYの抗体による検出がうまくいっていないことから,トラフグゲノムデータベースを活用してNPY遺伝子の発現をリアルタイムPCRで検出する系を作成中であり,こちらの系で昨年度の標本も含めて再度解析をすることで対応したい。
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水産増殖
巻: 63 ページ: 141-149