研究課題
本研究では「フグは脳内報酬系の支配によってフグ毒(TTX)を取り込む」という仮説を立て,無毒の人工トラフグ種苗を主な材料に,分子生物学と組織化学の手法を駆使してこの仮説の証明に挑戦する。無毒の人工トラフグ種苗(体長40㎜,体重1.9g)を12尾ずつの2群に分けた。これらを容量200Lの循環ろ過装置を設置した水槽2基に収容した。そして,摂餌誘引物質を極力排除するためにカゼインをタンパク源とする配合飼料を給餌する対照区と,対照飼料にTTXをスプレーしたTTX配合飼料(2.45MU/g)を給餌するTTX給餌区とを設定した。各々の実験区の供試魚に1日2回の飽食給餌を行い,10日間飼育後に摂餌量と成長量を比較した。生残率はいずれも100%であった。さらに,統計的な有意差は検出されなかったものの,TTX給餌区の摂餌量,体重および比肝重が対照区のそれらの値よりも大きい傾向を示した(t-test, P=0.13)。また,摂餌行動もTTX給餌区の方が活発であった。次に,これらのサンプルのNPY遺伝子の脳内発現をリアルタイムPCRで比較したところ,ここでも統計的な有意差は検出されなかったものの,TTX給餌区の方が対照区よりも発現量の多い傾向が見られた。
3: やや遅れている
昨年度の結果を受けた改善点,すなわち摂餌誘引物質を含有しない餌と,NPY遺伝子の発現量を調べるリアルタイムPCRの系を作成することが出来,これらを実験に応用できた。また,飼育実験の成長差や遺伝子発現量は,仮説を支持する傾向が見られた点では,進捗状況は十分であると思われる。しかしながら,実験結果は仮説を支持する有意差を検出するには至らなかったため,「やや遅れている」と評価した。
実験に必要な飼育技法と遺伝子の測定技法を確立することが出来たが,仮説を支持する結果を十分に得るには至っていない。この原因に,成長および遺伝子発現に個体差が非常に大きく,個体群で評価することが難しいことが考えられた。本年度は,全ての供試魚を個体識別して,成長量および遺伝子発現を詳細にトレースすることで対応したい。
すべて 2017 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 備考 (1件)
Fisheries Science
巻: 83 ページ: 191-198
10.1007/s12562-016-1046-0
巻: 83 ページ: 印刷中
10.1007/s12562-017-1079-z
http://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/week1/2016/jun/m160615.html