研究実績の概要 |
本研究では,「フグは脳内報酬系の支配によってフグ毒を取り込む」という仮説を立て,無毒の人工トラフグ種苗を材料に,分子生物学と組織化学の手法を駆使してこの仮説の証明に挑戦する。 無毒のトラフグ人工種苗(体長41.9±2.4 mm, 体重 2.0±0.4 g)にTTX(100 MU)を嗅がせる処理を行い,無処理の稚魚とともに,リアルタイムPCRにより食欲促進ホルモンであるニューロペプチドY(NPY)の脳内での遺伝子発現量を調べた。その結果,TTXを感知した稚魚のNPY遺伝子発現量は対照のそれよりも高い傾向が見られた。 次に,カゼインを主タンパク源とする飼料(対照飼料)を作製し,これにTTX(2.4 MU/g·feed)を添加した。トラフグ人工種苗を対照区とTTX給餌区の2群に分けた(n=3)。それぞれ市販配合飼料で7日間馴致した後,体長・体重を記録した。馴致後7日間は両区に対照飼料を与えて飼料に馴致し,以降は実験飼料を残餌が出ないように1日2回飽食量与えて28日間飼育した。飼育最終日に体長・体重を測定するとともに,LC/MSによってTTX蓄積を調べた。その結果,飼育終了時のTTX給餌区の稚魚にTTX(0.43±0.20 MU/尾)の蓄積を確認した。対照区(体長70.2±4.4 mm, 体重10.3±2.4 g)よりもTTX給餌区(73.6±1.9 mm, 11.4±0.9 g)の成長が優り,尾鰭欠損率はTTX給餌区(48.9±5.7%)の方が15%低かった(p<0.05)。 以上のことから,TTXのトラフグ稚魚に対するストレス軽減作用を再確認するとともに,新たにTTXがトラフグに対して摂餌誘引と消化機能亢進効果のあることを示した。
|