研究課題/領域番号 |
15K07584
|
研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
水田 尚志 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (30254246)
|
研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
|
キーワード | ナマコ / 体壁 / 加熱 / 脆弱化 / 生理異常 / コラーゲン / 結合組織 / 糖タンパク質 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究において、通常個体と脆弱個体の真皮を抽出液(2M NaCl、10mM EGTAならびにプロテアーゼインヒビターカクテルを含む20mMトリス-塩酸緩衝液、pH8.0)で抽出した際の可溶性画分が互いに異なる電気泳動パターンを示すことが示唆され、脆弱個体は通常個体に比べて45kDa成分に乏しく、200kDaおよび31kDa成分に富むなど傾向が認められた。これらの事実は本現象を解明する上で未だに未知の部分が多く残されているマナマコ真皮構成タンパク質の基礎情報の蓄積が不可欠であることを示すものである。今年度は組織学的手法により脆弱個体の特性をさらに明確にするとともに、上記タンパク質のうち最も量的に多く含まれる200kDa成分(400kDa糖タンパク質のサブユニット)の組織化学的分布の明確化を試みた。生鮮試料から採取した真皮の組織観察では、通常および脆弱個体いずれにおいてもコラーゲン繊維の形態や密度にほとんど差がなく、繊維はほぼ均一に分布していた。しかし、ボイル後の試料では、通常個体でコラーゲン繊維がほぼ均一に分布していたのに対し、脆弱個体ではコラーゲン繊維の分布が一様ではなく、特に密度の低い領域(低密度領域)が随所に不連続的に認められた。これらの結果から、脆弱個体ではコラーゲン繊維の低密度領域を中心として内部に水分がよく保持されていることが脆弱な物性を呈する一要因であることが示唆された。400kDa糖タンパク質に対する特異的な抗血清を用いて免疫組織化学的染色を行ったところ、コラーゲン繊維部のみならず繊維間の液状部分にも広く分布していることが判明した。これら結果は、本タンパク質の一部がコラーゲン繊維に結合して隣接する繊維との相互作用に関わっており、それ以外の分子は遊離状態で体液中に溶存し真皮におけるコラーゲン繊維間の均一な分布の維持に関わる可能性を示すものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究経過から、通常個体と脆弱個体の生鮮真皮を緩衝液で抽出した際に、溶出するタンパク質の組成に違いがあることが分かった。また、生鮮組織では組織構造的な差異が認められないものの、ボイル後には脆弱個体でコラーゲン繊維の「低密度領域」が出現するなど形態的差異が明確になった。また、400kDa糖タンパク質の組織分布が明確となり、これがコラーゲン繊維間の相互作用に関わっている可能性が示された。このように、タンパク質組成の側面および組織形態学的側面から本現象のメカニズム解明の手掛かりが得られてきているため。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究のこれまでの成果を総合して、本現象(ボイル時の異常脆弱化)が起こるメカニズムに関する以下の仮説を提唱する。「脆弱個体ではコラーゲン繊維間の相互作用をつかさどるタンパク質(ニセクロナマコにおいて報告されているテンシリンやソフテニンなどの調節タンパク質群)に何らかの異常をきたし、コラーゲン繊維の正常なネットワーク構造が構築されていない。よって、加熱時のコラーゲン繊維の収縮力が真皮組織全体に伝播せず、結果として収縮不全となる。つまり、コラーゲン繊維のネットワーク形成が部分的であるため収縮も局所的に起こり、これが「低密度領域」の出現につながっている。」 今後、これまでに見出した400kDa糖タンパク質のコラーゲン繊維間相互作用の調節機能について検討を進めるとともに、様々な抽出条件を導入することによって本現象に関わるタンパク質成分の探索ならびに同定を行うことにより、上記仮説の立証をめざす。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究では研究の再現性を考慮し、特別の事情がない限りは使用するナマコ試料を北海道利尻島海域で漁獲されるものに限定している。北海道利尻島ではナマコの漁期が年2回(4月および6月)のみであることに加え、本研究の採択日が平成27年10月21日で研究初年度(平成27年度)における研究開始時点で既に漁期が終了していたことから、本研究の実質的な開始が平成28年度となった。よって、平成28年度においては主に平成27年度の未使用額を、平成29年度においては主に平成28年度の未使用額を使用して研究を進めることとなったので、「次年度使用額」(1,490,784円)が生じた。
|