研究実績の概要 |
マナマコの体壁は加熱により著しく収縮し、強い弾力を示すゲルとなる。しかし、個体によっては加熱後も物理的に脆弱であることがあり産業上の問題となっている。本研究は、体壁の構造やタンパク質性状の面からこの異常脆弱化の機構解明を目指すものである。昨年度までの研究から異常脆弱化が真皮組織の熱収縮不全であることが明確となり、そのような個体ではコラーゲン線維間の結合が正常個体に比べて不十分であるため、コラーゲン線維の熱収縮力が真皮全体に十分伝わらず、その結果脆弱になると考えられる。そこで、今年度は本現象をコラーゲン線維間相互作用調節タンパク質(主にテンシリンまたはソフテニンに相当するタンパク質)の量的または質的変動がもたらす現象と位置づけ、マナマコにおけるこれらのタンパク質の探索を目的とした。 通常個体の生鮮試料について2倍量の緩衝液(0~2.0M NaClを含む20mMトリス-塩酸緩衝液, pH8.0)で抽出し、遠心上清をSDS-PAGEに供したところ、テンシリン(34kDa)およびソフテニン(20kDa)を含む分子量領域(おおよそ15~40kDa)のタンパク質を効率よく抽出するのに1.0M以上のNaClを含む緩衝液が適することが分かった。得られた可溶性画分での主なタンパク質成分は、200kDa, 116kDa, 80kDa, 45kDa, 38kDaおよび36kDaであった。通常個体と脆弱個体の間でSDS-PAGEパターンを比較したところ、脆弱個体で116kDa成分に富む傾向があった。また、38kDaおよび36kDa成分に関しては、通常個体ではこれら両方を示す個体または38kDaのみ示す個体がほとんどであったが、脆弱個体では全て36kDa成分のみを示した。これらの結果から、116kDa成分の他、38kDaおよび36kDa成分が異常脆弱化に関与する可能性が示された。
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