ポリアミンは分子内に複数のアミノ基を有する低分子化合物の総称で,全ての生物の体内に多量に存在する。ポリアミンは細胞の分化や増殖に必須であるが,その主要な生理機能は未だ解明されていない。我々は,ポリアミンが空気中のCO2と高い反応性を有し,海水中に能動的にCO2を溶かし込み石灰化を促進することを発見した。このポリアミンによるCO2濃縮メカニズムが,海洋生物の石灰化および藻類や植物の光合成に寄与しているのではと考えた。海洋生物の石灰化とポリアミンの関わりを検証する目的で,ミドリイシサンゴの稚ポリプへの石灰化の様子を観察した。ミドリイシサンゴは,造骨細胞外の石灰化母液と呼ばれる場所で石灰化を行っている。蛍光pH指示薬を用いて石灰化母液の観察を行ったところ,石灰化母液内に海水に比べて,pHが1程度高い場所が観察でき,塩基性物質のポリアミンが関与している可能性を見出した。また,光合成へのポリアミンの寄与を調べる目的で,ポリアミンが水溶液中に取り込んだCO2が光合成の炭素固定酵素であるルビスコの基質になりうるかを検証したCO2を吸収させたポリアミン水溶液は,ルビスコの基質となることが明らかとなった。平成29年度は,ミドリイシサンゴ稚ポリプの石灰化母液の観察を個体数を増やして実施した。また,化学合成したポリアミンの輸送体阻害剤が,シアノバクテリアの増殖を有意に阻害することを見出すことが出来た。また,シアノバクテリアの細胞内に多く含まれているスペルミジンの付与は増殖と光合成に影響を及ぼさないのに対し,シアノバクテリアの細胞内に殆ど含まれていないプトレッスシンは増殖及び光合成を有意に阻害することも明らかになった。
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