研究課題/領域番号 |
15K07588
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研究機関 | 帝京科学大学 |
研究代表者 |
平井 俊朗 帝京科学大学, 生命環境学部, 教授 (30238331)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 性分化 / 器官形成 / 生殖輸管 |
研究実績の概要 |
ニシキゴイの体成長に伴う生殖腺各部の形態的雌雄差発現について経時的な追跡を行った。その結果、体サイズと生殖腺各部の形態形成との関連性が明らかとなった。以下にその要点を記す。1)全長4から5cmにかけての時期に雌生殖腺の頭部側から卵巣腔形成が開始される。2)次に全長5から6cmにかけての時期に雌特異的な生殖細胞の増殖が開始される。3)全長9から10cmにかけての時期に卵形成が開始され、初期周辺仁期卵母細胞が出現する。4)一方、雄では全長5から6cmにかけての時期に生殖腺基部に輸精管の形成が開始される。5)次に全長6cmから7cmにかけての時期に精巣内に精小嚢が形成される。6)全長8から9cmにかけての時期に精子形成開始に伴う生殖細胞の増殖が開始される。 上記の解析に併せて、異なる体サイズからの性転換処理実験を行った。遺伝的雌(XX)に対する雄化試験では、6cm辺りから精巣化効率が上昇し、それ以前では比較的高率で不妊化することが明らかとなった。これに対して遺伝的雄(XY)に対する雌化試験では全長5cm以前の時期に処理を開始することで高い卵巣化効率を得ることができた。雄化試験では高率で精巣化が確認できたにも関わらず、精液搾出可能個体の割合が少なかったため、今後継続飼育により経過を観察しつつ組織学的解析によりその原因を明らかにしたいと考える。 アメマスについても輸精管形成過程に注目して雌雄生殖腺の形態形成過程を追跡した。その結果、孵化後80日では生殖腺に形態的雌雄差が見られなかったのに対して、孵化後140日では遺伝的雄(XY)でのみ生殖腺門部に輸精管の起源と思われる内腔が出現した。一方、遺伝的雌(XX)の雄化試験では、生殖腺本体の精巣化は誘導できなかったが、生殖器系尾部側では不完全ながら雄化の兆候と思しき形態的所見が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は新潟県内水面水産試験場における普及化実証試験との共同で実施している。ニシキゴイを用いた研究では、初年度調査の一部として先に雄化処理を行った遺伝的全雌(XX)群を使用する予定であった。供試魚についてはあらかじめ幼魚(生後1年、未成熟)段階で行ったサンプリング調査では最大60%の精巣化を確認していた。しかし、本年度に行った精液搾出試験では採精可能個体の割合が低く、これらについては当該実証試験の最終段階であるF2魚全雌化確認試験のための親魚として確保することを優先せざるを得なかった。このような事態により、本研究のために使用できる個体数が当初見込みよりも大幅に減少してしまった。さらに調査した採精不能個体のほとんどは不妊化個体(精巣化そのものが不調に終わった個体)と未熟魚であり、精巣成熟をともなった採精不能個体は得られなかった。一方、帝京科学大における飼育実験については、研究開始後に研究代表者の岩手大学への転出が決まったため、一旦は断念せざるを得ない状況となってしまったが、帝京科学大学との協議の結果、規模を縮小して継続することが認められたため、次年度に向けて改めて計画を一部変更して飼育実験を実施することとなった。 本研究では遺伝的雌(XX)の精巣化処理において輸精管形成不全を多発することが知られているサケマス類についても研究対象とすることとした。新潟県内水面水産試験場にて美雪マス生産用親魚として雄化処理を行ったアメマス遺伝的全雌(XX)群を使用した。しかし、使用した処理群の生殖腺組織を経時的に観察したところ、観察したすべての個体で卵形成が確認され、精巣化処理そのものが不調であったことが判明したため、当初予定の解析に供することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究において、当初予想していなかったいくつかの事情が発生したため、特に飼育実験については目標の達成ができなかった。そのため、当初の研究計画の達成にむけて飼育実験の体制を再編することとした。以下にその概要を記す。 ニシキゴイについては当初実験計画の内容を縮小して、帝京科学大の施設にて飼育実験を継続することとする。具体的には帝京科学大との共同研究により今後の研究を遂行することとし、そのために帝京科学大・生命科学科 柴田安司准教授を新たに研究分担者として加え、当該研究の実施協力を受ける。さらにこれまで研究補助のためにアルバイト雇用してきた小川智史氏を引き続き雇用し、従来の組織観察業務に加えて飼育業務にもあたらせる。 サケマス類については、初年度研究において雄性化処理群において精巣化を誘導できなかったため、次年度も新潟県内水面水産試験場の協力を得て、再度雄性化処理試験を実施する。また研究代表者の転出先である岩手大学三陸水産研究センターにおいても、同試験場よりアメマス受精卵の提供を受けて異なる条件で雄化処理を行い、精巣化個体が得られる可能性を担保する。
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