研究課題/領域番号 |
15K07590
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
加川 尚 近畿大学, 理工学部, 准教授 (80351568)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メダカ / 競争行動 / AVT / 脳内投射領域 |
研究実績の概要 |
アルギニンバソトシン(AVT)は脊椎動物の多様な生命現象に関わる神経ペプチドホルモンであるが、攻撃や逃避といった生命維持の根幹となる競争行動の制御にどのような役割を果たすかは不明である。この課題解決のため、本年度は個体間競争において攻撃行動をとる優位個体と逃避行動をとる劣位個体の間で、AVTニューロンの脳内投射領域や神経活動量に差異があるかを調べた。実験には脳内のAVTニューロンをGFPにより可視化した遺伝子導入メダカを用いた。メダカ雄個体間における競争行動や社会順位は既に確立された行動試験により定量化した。 始めに、脳におけるAVTニューロンの細胞体の局在と軸索の投射領域を組胞形態学的に調べた。細胞体は、優位個体および劣位個体のいずれにおいても3つの異なる視索前核部位(POA)に局在した。このうち優位個体はgPOA、劣位個体はpPOAにおいて、それぞれAVTを高発現していた。また、劣位個体ではgPOAにおけるAVT発現はほとんど認められなかった。軸索は、いずれのPOAに局在するAVTニューロンも下垂体へ投射する他、gPOAの細胞体からは中脳背側、pPOAの細胞体からは終脳腹側へも、それぞれ投射することがわかった。なお、p-POAからのAVTニューロンの投射領域に優位個体と劣位個体の間で明瞭な差異はなかった。 次に、AVTニューロンの細胞体の神経活動をライブイメージング法により調べた。なお本研究では優位個体と劣位個体の両方でAVT発現が認められたmPOAおよびpPOAに着目して解析した。mPOA、pPOAのいずれにおいても、神経活動量の異なる細胞体群が確認され、それぞれのPOAにおいて2,3個の細胞群間で同期した神経発火が認められた。この結果は優位個体と劣位個体のいずれにおいても同様であった。3つのPOA間における神経発火活動の同期性については現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度に計画していた実験はすべて実施した。このうち、競争行動時におけるAVTニューロン細胞体の局在性および投射性については解析を完了し、優位個体と劣位個体の間における差異が明らかになった。一方、ライブイメージングによるAVTニューロン群の神経活動の同期性については、現段階では優位個体と劣位個体の間に明瞭な違いは認められておらず、研究計画当初の予想に反する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度の得られたAVTニューロンの脳内投射領域に関する結果を受けて、H28年度は、各脳領域に投射するAVTが優位個体の攻撃行動や劣位個体の逃避行動の制御にどのように関与するのか、それぞれの投射領域におけるAVT受容体の発現に着目して当初の研究計画通り、解析を進める。さらに、AVT受容体の発現解析結果をもとに、受容体遺伝子のノックアウトメダカの作出を開始する。 また、AVTニューロン群の神経活動解析については、優位個体と劣位個体でAVT発現に顕著な差がみられた脳部位とは別の部位に局在するAVTニューロン群の神経活動についても解析し、AVTニューロン群が局在する複数の脳部位間における神経ネットワークの有無について解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経細胞の局在性と投射領域を調べる実験の結果から、ライブイメージング実験の解析対象となる脳領域が計画当初よりも減ったため、イメージングに要する試薬費用が計画よりも少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
複数の脳領域に局在するAVTニューロン群の領域間における神経ネットワークの行動制御機能の解析を新たに追加で実施する。この際のライブイメージング実験の試薬費にあてる。
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