H29年度では、攻撃行動時に発現増加するV1a型AVT受容体をノックアウトしたKOメダカを用いて、雄間競争行動試験を実施し、野生型と比較した。その結果、KO個体間においても野生型個体間と同程度に攻撃行動や逃避行動が観察され、行動回数から攻撃性の高い優位個体と攻撃性の低い劣位個体にわかれた。一方、KO個体間の競争行動試験では、行動回数がほぼ同程度観察される引分け個体が、野生型個体間と比べて高頻度で得られることが判明した。そこで、対他個体行動をさらに精査するため、野生型の遊泳行動をモニターに写して被験個体に一定時間みせる個体認知行動試験を実施した。その結果、被験個体のモニター面接触回数やモニター側滞在時間が、野生型では試験時間が経過するにしたがって減少したのに対して、KO個体では試験時間を通して減少がみられなかった。これらの結果から、KO個体では、遭遇した他個体に対する接近行動を執拗にとることが明らかになり、AVTとV1a型受容体を介した神経回路が個体の社会性行動に重要な働きを果たすことが示唆された。 本研究で解析対象としたAVT受容体は脳内に広く発現するが、優位個体では終脳腹側および中脳背側に高発現していた。そこで、これらの各脳領域の機能とAVTとの関連性を調べるために、各領域における神経ペプチドの発現を解析した。その結果、攻撃性の高い個体では終脳腹側におけるGnRH3発現量が低く、中脳背側におけるKiss1発現量が高いことがわかった。AVTとV1a型受容体を介した脳内の情報伝達にこれらの神経ペプチドが連関して攻撃行動や社会性行動を制御する可能性が考えられた。この可能性については、今後これらの神経ペプチド発現細胞にV1a型受容体が共発現するかを調べて検証する必要がある。
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