研究課題/領域番号 |
15K07595
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
東山 寛 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (60279502)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メガFTA / 北海道農業 / 土地利用型農業 / 担い手確保 / 労働力確保 / 営農支援 |
研究実績の概要 |
2018年度は「自由貿易推進体制」をめぐって大きな動きがあった。まず、2018年12月30日にTPP11協定が、続く2019年2月1日に日EU・EPAが相次いで発効した。日本農業は文字通りの「メガFTA時代」を迎えたと言える。メガFTAが農業に与える影響は大きく3つに整理される。第1に、関税の削減・撤廃による価格影響である。第2に、関税削減プロセスに伴う保護財源の喪失である。この第1、第2の影響については政府もある程度想定済みであり、基本的には「対策の充実」と「予算の確保」が方針として示されてきた。しかしながら第3に、輸入の増大による国内市場の喪失、国内生産の縮小という事態も今や想定しておかなければならない。この3つの影響の現れ方は、品目によって異なると思われる。特に第3の影響については、関税割当(輸入枠)を設定している品目では当面の輸入増加は見込み難いと言えるが、重要品目のなかでも牛肉・豚肉はこのような枠組みをもっていない。特に牛肉では、2019年1月以降の輸入急増が早くも注目される状況となっており、メガFTAによるトレンドの変化を見極めること自体が、本研究にとっても重要な前提作業となることが明らかである。本研究は北海道の土地利用型農業を対象として、競争力強化の方向を、自らの生産物を確実に「内需」と結びつける「商品化アプローチ」と、自らが抱える「構造的欠陥・脆弱性」を克服する「構造問題アプローチ」に求めた。そして地域農業の現局面は、稲作・畑作・酪農を横断した「供給不足」の側面が強まっていると言わざるを得ない。メガFTA時代においては、地域農業の生産基盤を維持することが何よりも重要な課題であり、本年度はそれに結びつく「担い手育成」「労働力確保」「営農支援」の3つをポイントとして、水田・畑作地帯の実態分析をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は北海道の土地利用型農業における体質強化策を具体的に検討することを課題としている。その際、自らの生産物を確実に「内需」に結びつけること(商品化アプローチ)と自らが抱える「構造的欠陥・脆弱性」を克服すること(構造問題アプローチ)というふたつの視点を置いた。そして地域農業の現局面は、北海道土地利用型農業の「三本柱」である稲作・畑作・酪農を横断して「内需」に応え切れていない「供給不足」の状況にあり、その背景には各地域が抱える「担い手・構造問題」がある。そこで、当初設定した「商品化アプローチ」はやや後景に退き、地域農業の生産基盤の維持に結びつくような諸対応を分析することに本研究のウェイトを置くようになっている。本年度は、あらかじめ定点観測の対象として設定した畑作・酪農地帯について、①農協を中心とした新たな営農支援システムの充実・強化(オホーツク管内津別町)、②地図情報システムを活用した輪作体系の再構築と農協による営農指導の強化(オホーツク管内小清水町)、③農協独自の「分場方式」による新規参入支援システムの構築(根釧管内浜中町)といったように、新たな地域農業システムの姿をまとまったかたちで描けるような段階に到達したことから、研究のとりまとめに向けて順調に進捗していると言える。ただし、2018年9月6日に発生した北海道地震の影響により、予定していた酪農地帯の調査ができなかったことから、該当部分の調査を2019年度に実施することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初期間は2018年度までであったが、2018年9月6日に発生した北海道地震により予定していた酪農地帯の調査が実施できなかったことから、研究期間を1年延長し、当該部分の調査を2019年度に実施することとした。具体的には、根釧管内浜中町における「分場方式」を活用した独自の新規参入支援システムの構築にかかわり、農協が主体となっている農地利用集積円滑化団体を活用した農地の中間保有に関する実態把握を中心とする。ただし、この円滑化団体の仕組みそのものが、2019年に予定されている農地バンク法の改正に合わせて変更されることから、地域が必要とする新たな対応についてもフォローする必要がある。併せて、同じく根釧管内のJAけねべつやオホーツク管内のJAつべつが主導する第三者継承タイプの新規参入支援にかかわる追加調査を実施する。2019年度は研究の最終年度であり、調査対象地域における新たな地域農業システムを全体として整理すると共にその特徴づけを行い、メガFTA時代における地域農業の生産基盤の維持にかかわる新たな知見を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の研究期間は2018年度までであったが、2018年9月6日に発生した北海道地震により予定していた酪農地帯の調査を実施することができなかった。酪農地帯は地震による直接の被害もさることながら、停電(ブラックアウト)による損失(廃棄)乳の発生、搾乳不能による乳房炎の多発など、生産面での被害が深刻であった。そこで研究期間を1年延長し、該当部分の調査を2019年度に実施することとした。具体的には、根釧酪農地帯における新たな新規参入支援システムの構築にかかわる実態調査である。
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