研究課題/領域番号 |
15K07597
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
仙北谷 康 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (50243382)
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研究分担者 |
金山 紀久 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (00214445)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 家畜共済 / 家畜保険 / リスクマネジメント / 管理獣医療 |
研究実績の概要 |
家畜共済および家畜保険制度は、畜産経営体における経営上のリスクを外部化し、家畜生産を安定させ、経営を安定させるための制度である。畜産経営において飼養頭数が数10頭から数百頭におよぶようになると、年間数頭の家畜が、疾病等によって死亡する事故は稀な事故とはいえない。この点は我々の価値共済調査およびシミュレーションによって明らかにされた。ほぼ毎年発生するのであればそれはリスクではなくコストと理解すべきである。 現在わが国の家畜共済制度では、いくつかの問題が発生している。第一は、頭数の増加が共済価額の増加、共済掛金の高額化につながり、大規模経営体は共済加入が大きな負担となっている。これを避けるために付保割合を下げざるを得なくなってきていることが実態調査から明らかになった。第二は、言うまでもなく共済制度の事業主体である国が支出する費用が膨大になっているという点であり、民間事業者がこれにかわる状況には当然なり得ない。 家畜共済の保険化のためには、畜産経営体にとって何が外部化しなければならないリスクなのかを明確化することである。参考になると考えられるのがデンマークの家畜保険制度である。ここで特徴的なのは畜産経営にとってのリスクを、短期間に複数等の家畜が死亡することに限定している点である。これにより畜産経営が安定するとともに、民間企業が事業を提供できる。 この制度を導入するために、デンマークでは乳牛個体移動、疾病暦、乳検、等のデータベースが統合されており、家畜保険を提供する企業がこれにアクセスすることで、保険に加入しようとする酪農経営体の事故率を正確に計算し、公平な家畜保険サービスを提供できるようになっている。同時にこのデータベースに獣医師もアクセスすることが許可されており、適切な獣医療サービスの提供に活用している。このような生産獣医療の充実が家畜保険サービスを支えていると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
わが国の家畜共済制度の特徴を明確にするために、ベトナムの家畜保険制度との比較分析を行った。その結果、①死廃事故の対象が網羅的であるのに対して、ベトナムの場合は発生率が非常に低い3つに限定されている、②わが国の家畜共済は、病傷治療に対しても共済金の支払いがあるがベトナム家畜保険にはない、という特徴がある。このためわが国の家畜共済制度を維持するためには高額の負担金が必要であるが、共済加入の畜産経営体だけでこれを維持するのは困難である。一方ベトナムにあっては再保険の引受が民間企業であることから、リスクマネジメントの考え方に基づいて保険制度が設計されており、それ故に保険対象が限定的であるとみることができる。 現在のわが国における家畜共済制度の問題点に関しては、北海道における酪農経営体の実態調査を通して明らかにし、その成果は農業経営学会で報告し、また論文として農業経営研究に投稿した。そこで明らかにしたことは、現在のわが国の家畜共済制度が、大規模経営体によって本来リスクとはいえない事故までもカバーしているため、酪農経営体にとって共済掛金が高額になり、付保割合を下げるように作用していることである。 現在の家畜共済制度を改善し、民間事業者でも維持できるものとするための方向に関する検討は、2017年の北海道農業経済学会で報告した。その主な内容は、家畜共済制度は、畜産経営体におけるリスクマネジメント制度であるから、畜産経営体におけるリスクは何かという点を明確化する必要がある。現在の、すべての死廃事故を共済事故とする制度はリスクマネジメントとしては適当ではなく、すべての共済加入者が毎年共済金を受け取る現状は補助金的な性格を有することを明らかにした。その上で、保険として民間事業者が運営可能な家畜保険の参考として、デンマークのように事故を限定することが有効であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
わが国の家畜共済制度の改善方向に関する論文は、北海道農業経済学会で報告した。この際有益なコメントが得られたため、新たな情報を追加し、2018年度の日本農業経営学会において報告し学会誌への掲載をする予定である。 2018年度の新たな研究としては、主として二つの課題に取り組むこととした。第一は、韓国における家畜共済制度とSwissReによる保険再引受の関係である。韓国の家畜保険制度は、疾病治療に対する支払がない点はわが国の家畜共済と異なるが、1頭の家畜死廃事故にたいしても家畜保険金を支払う点はわが国と同様である。そうしたときにこの補助金的家畜保険支払に対して、SwissReはどのように収支を成り立たせているのかが問題である。この点を明らかにするのが今年度の第一の課題である。同時に、韓国の家畜保険制度で家畜疾病等にかかわる治療費は保険の対象ではない。そうしたときに畜産経営は家畜治療費の支払いについてどのような経営対応をとっているのか、という点についても検討する。 第二の課題は、ベトナムにおける新たな家畜保険制度に関する検討である。これまでベトナムで実施されていた農業保険は、パイロット事業ということで地域や保険対象となる事故も限定的であった。今年度よりベトナム政府は本格的な農業保険制度の実施を計画しているようである。これによって家畜保険制度は維持されていくのか、詳細に検討することが必要である。これまでの我々の情報収集では、かなり網羅的な内容として実施が計画されているが、これが有効な制度として機能するのかという点については不透明な点が多い。これについてベトナム農業大学及びベトナム国内の保険会社から協力を得ながら実態を解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一に、韓国における家畜保険調査を継続する。江原大学名誉教授の李教授から受け入れ可能との連絡を受けている。また韓国での調査相手も李教授が調整している。この調査では、死廃事故の再保険の収支と、畜産経営の家畜治療対応について調査を行う予定である。 第二に、ベトナムでの調査を実施する。今年度、ベトナムでは新たな農業保険に関する枠組みが政府から公表された。これが実際どのようなかたちで運用され、どのような成果が上げられるのか、明確にしておく必要がある。運用開始直後ということで評価可能な成果が得られるまではまだ時間を要すると考えられるが、初期段階での運用の実態を整理しておくことは意義があると考えられる。
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