研究課題/領域番号 |
15K07599
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柘植 徳雄 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (80281955)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 農業問題 / 農業不況 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、農業問題の諸側面のうちの特に低所得問題を対象に、それに関する諸説の検討を通じて、農業問題の発生機構を明確にすることにある。課題へ接近するため、「農業経営の階層構造の史的変遷」、「世界農業不況」という二つの分析概念を設定し、これらを明確化することを前提に農業問題の発生機構の全体像を解明しようとしている。 平成27年度には、世界農業不況を検討し、19世紀末農業大不況の要因として、西欧諸国の産業資本段階から金融資本段階への以降に伴う独占体形成の影響、あるいはドイツ・アメリカ資本主義の急激な発展により工業国際競争力の低下に直面した中心国イギリス経済の不振の影響を否定できないにしても、最も重視すべきは、帆船から蒸気船への移行、アメリカ中西部から五大湖沿岸への大陸横断鉄道の敷設、さらには冷凍船の実用化によるアルゼンチン等からの食肉輸入の増大といった、大西洋をめぐる交通革命による西欧への安価な穀物・食肉の輸入増大であることを明らかにした。同様の交通革命の影響は、ロシア、インドからの穀物輸入にもみられた。 これに対して両大戦間期の世界農業不況は、資本主義の蓄積構造の変化に原因があることが明らかとなった。第一次大戦で経済力が低下した西欧諸国が、軍人の復員や社会主義革命の側圧で社会問題化した失業問題を緩和し、さらには農業復興を推進するために採用した農業保護関税が世界農業不況の要因だとする見解(渡邊寛)が有力であったが、関税水準の引き上げは1920年代後半に顕著であって、真因は金融資本の確立に伴う経済成長力の低下にあることが判明した。 いずれも従来からの争点に対する積極説の提示であり、意義ある貢献といえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「世界農業不況」に関する研究は進めることができたが、「世界農業不況」と並ぶもう一つの重要な柱である「農業経営の階層構造の史的変遷」に関する研究は遅れ気味であるため。なお、それらの総括の上に取りまとめる「農業問題の発生機構」に関する研究については、現代のアメリカの農業経済学の教科書等が入手でき、そこで展開されている農業問題概念についての研究を一定程度は進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、遅れている農業経営の階層構造の史的変遷についての研究に力を入れるとともに、アメリカにおける農業問題論の学界での展開過程を辿り、それとの関連でわが国おけるシュルツ理論以降のアメリカ農業問題論導入の歴史、対抗するわが国の過剰就業論を中心とした農業問題研究の流れをトレースして、課題に接近する。
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次年度使用額が生じた理由 |
農業経営の史的変遷に係る欧米現地調査を控え、世界農業不況、並びにアメリカ農業経済学の展開過程に関する文献研究に作業を集中したためである。欧米現地調査旅費に相当する金額が繰越助成金となった。
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次年度使用額の使用計画 |
欧米の農業経営における雇用労働状況の現地調査を実施するとともに、当初から次年度に予定している文献研究を継続する。アメリカ農業経済学の展開過程と日本におけるその受容過程を考察し、アメリカ農業経済学の影響の仕方、速水理論の特異性、過剰就業論に焦点を定めた日本農業経済学の背景を明らかにする。
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