研究課題/領域番号 |
15K07602
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
栗原 伸一 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (80292671)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 食品安全性 / 仮想バイアス / アンケート調査 / 会場実験 |
研究実績の概要 |
課題研究の2年目となる2016年度(平成28年度)は、研究代表者が過去に実施した2つの調査を比較分析することで、仮想バイアスの存在を検証した。研究代表者は、2012年に東久留米市周辺に居住している民間調査会社モニターを対象に、模擬店を使った実験とアンケート調査を実施した。前者は、2011年の原発事故以来、風評被害に見舞われている福島県産農産物の需要回復に資するため、消費者が店頭で放射能検査結果を容易に確認できるシステムを構築するとともに、その導入効果を会場テストによって検証することを目的とした実験である。そして後者は、実験と同じ目的を達成するために実施したアンケート調査である。さて、これら2つの調査を詳細に比較分析したところ、放射能検査確認システムが購入量に与える影響については、アンケート調査の方が「購入量が増える」と回答している者が多くなっており、模擬店舗でシステムを実際に目のあたりにしている者よりも高い評価を下していることがわかった。また、実験では検査結果を全く調べなかった者がもっとも多かったのに対して、アンケート調査では1~2品は調べると回答した者がもっとも多くなっていた。このことから食品安全性に関するアンケート調査では「追従バイアス」(調査主体の希望を察して食品安全性情報を高く評価しようとする仮想バイアスの一種)が発生している可能性があることが示唆された。また、台湾の中央研究院ならびに米国のペンシルバニア州立大学の研究者らと当該課題に関する共同研究を進めるべく、打合せを実施し、とりあえず関連データの提供を受けることとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度実施状況報告書における「今後の研究の推進方策(今後の推進方策)」で計画した通り、当該課題に関連した先行研究の詳細なサーベイ(初年度実施)に基づき、研究代表者である栗原が過去に実施した2つの食品安全性に関する消費者調査を比較分析することで、仮想バイアス(追従バイアス)の存在の確認に成功した。また、2016年8月には、同実施状況報告書の推進方策(使用計画)で計画した通り、台湾・中央研究院(ただし報告書では台湾大学であった)の副研究員であるPei-shan Liao博士と面会し、科研費の研究課題である食品安全性に対する台湾の消費者行動に関するデータの提供の依頼をし、快く承諾いただいた。同様に、米国ペンシルバニア州立大学教授のMark Brennan博士が来日した2016年10月には、当該課題に関連した共同研究について話し合う機会を持ち、日米両国で消費者実験を実施することとなった(実施時期については今後、詰める予定)。このように、2016年度は、過去の調査の比較分析による仮想バイアスの確認、台湾中央研究院ならびに米国ペンシルバニア州立大学との研究打合せという、昨年度に立てた計画を十分に達成したことから、当該課題の現在までの進捗状況としては順調に進展しているといえるだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
今回、仮想バイアスの1つである「追従バイアス」が、食品安全性に関するアンケート調査においても存在することが確認されたことを受け、今後は当該バイアス自体の大きさを実際に推定して行く。最終的には、会場実験などの現実の消費者行動と、アンケート調査などの仮想の消費行動を比較することが目的であるため、当該課題3年目となる2017年度は、それら2つの実験・調査の準備を行う。具体的には、民間の調査会社と打合せを重ね、学生を対象とした予備調査を行い、その結果をフィードバックさせながら詳細な実験手続き、あるいは調査項目を決定する。また、米国ペンシルバニア州立大学に赴き、共同で実施する実験・調査の打合せも行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
そもそも初年度に繰り越し金が発生していた事由に加え、予定したほど海外出張費がかからなかったため(米国ペンシルバニア州立大学に赴く計画であったにもかかわらず、別件で先方の方から来日してきたため)。
|
次年度使用額の使用計画 |
共同研究の詳細な打合せを行うために、米国ペンシルバニア州立大学に赴くとともに、巨大なデータ(農業センサス個票)を処理するため、性能の高いコンピュータを購入する予定である。
|