研究課題/領域番号 |
15K07602
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
栗原 伸一 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (80292671)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 仮想バイアス / 地理的表示 / 統計の誤用 |
研究実績の概要 |
本年度は、調査対象の決定と分析手法のレビューを実施した。まず、調査については、対象として食品の地理的表示(GI)に対する消費者の評価とすることにした。地理的表示とは、農林水産品や食品等に産地を特定できるように付される名称で、国際的にも知的財産権の1つとして広く認知されている。わが国では、いわゆるGI法が2015年に施行され、すでに運用が開始されている。GI制度に関する既往調査によれば、わが国では(GIが)品質、とくに安全性と強く結び付く可能性があることが予測されたため、本課題の評価対象として最適だと判断した。本制度に対する消費者側からの評価は、わが国では実施されていないため、今後の普及・推進にも資することが期待されよう。なお、調査票の内容と実験の計画については今年度中に決定できなかったため、2018年度の前半をめどに完了させることとした。次に、分析手法のレビューであるが、本課題の最終成果の投稿先として予定している学術学会誌の過去4年間の論文全てを対象として実施し、今回のデータをどのような枠組みで解析すべきかを検討した。しかし、本レビュー過程で明らかとなったのは、近年の消費者行動を対象に統計分析を実施した論文のほぼ全てにおいて、統計の誤用、具体的には多重性の問題が発生していることであった。この問題は、本課題にとっても大きな障害となるため、その発生原因と回避策について詳しく検討を続けた。その結果、当該学会誌における多重性が発生する原因は、消費者属性ごとに検定を実施して、有意となる属性を探し出していることであることが明らかになった。また、多重性の回避策として、検定だけでなく、重回帰モデルの係数の検定などにおいても、有意水準の補正が必要なことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、その存在が確認された「仮想バイアス(追従バイアス)」であるが、肝心の(調査・実験の)対象が決定していなかった。また、分析手法についても、計量的・統計的手法とした漠然としたもので、具体的な内容については決めていなかった。そうしたなか、今年度(2017年度)、対象を食品の地理的表示(GI)と決定できたことで、次年度からの進捗が加速されることが期待される。消費者が、食品の品質を産地と結びつけて評価していることは、既往研究からも容易に推測されることから、今回の調査対象としては最適であるといえる。また、GIを付した食品の保護については、2015年6月1日から地理的表示法に基づき運用が開始されており、神戸ビーフや夕張メロンなど、すでに59の品目が登録されている。現在、農水省は農産品に関するブランド確立(マーケティング)の一環として、本制度の促進・普及を目指していることからも、本研究課題は重要な意味を持つと期待されよう。同様に、決定が遅れていた分析手法についても、本年度は膨大な既往研究のレビューを実施した。本研究課題の成果を投稿予定の学術学会誌における直近の論文160本を精査したところ、35本で統計分析(検定)が実施されており、そのうち実に34本に誤用の疑いがあることが確認された。そして、それら(誤用)の多くは多項目検定による多重性の発生であった。そのため、本年度の後半は、その回避法についての研究に時間を費やした。関連論文などをレビューした結果、複数の統計学者によって、これまで多重性は発生しないとされてきた重回帰モデルなどでも当該問題の存在が指摘されていた。よって、本研究課題の分析では有意水準の補正法を導入することで当該問題を回避することにしたが、具体的な分析手法までは決定できなかったことから、進捗状況としては、やや遅れ気味であると言わざるを得ないであろう。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度を前に調査・実験の対象がようやく決まったため、2018年度の前半には具体的な意識調査票と購買実験の具体的内容を完成させ、夏頃にはどちらも実施する予定である。具体的には、意識調査については、地理的表示のある食品と、ない商品の写真をWeb上で表示し、民間調査会社のモニターに回答してもらうことで、仮想的な選択行動を観測する。購買実験についても、意識調査と同じように、地理的表示のある食品と、ない商品を仮設店舗に陳列し、近隣の主婦に実際に買い物をしてもらうことで、現実の選択行動を観測する。そして、それを統計的・計量的に比較することで、それらのギャップの大きさを測定する。ただし、遅れ気味である分析手法の具体的内容の決定について、本分野の研究において世界的にも進んでいる米国の研究者の協力を仰ぐため、9月頃にペンシルバニア州立大学に赴く予定である。また、そのときに、可能であれば米国の学生を対象に同内容の(小規模な)調査・実験などを実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していた米国への出張が出来なかったことと、高性能のコンピュータの購入を見送ったため、次年度使用額が生じてしまった。前者は、代表者の個人的な都合から実現できなかった。また後者は、分析するデータを入手、つまり調査・実験を実施してから、分析に入る直前に最新のものを購入した方が良いだろうと判断したためである。 来年度は、分析手法についての詳細な打合せを行うため米国ペンシルバニア州立大学に赴くとともに、複雑な分析を行うために高性能コンピュータを購入する予定である。
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