水産物の流通構造は小売主導型へ転換しているとされ、従来の中心であった卸売市場流通はその姿を変え、新たな流通システムが登場している。これまで水産物フードシステムの俯瞰的な把握や,個別構成主体の事例研究は進められているが、現在の流通システムの存立根拠を理解し、資源・市場の変動に対応するための方策を描くためには、フードシステム構成主体間の関係について分析が深められる必要がある。本研究では企業境界に着目した理論体系である新制度派経済学によって水産物の流通構造にアプローチし、構成主体の行動や関係の変化という視角から水産物流通システムの変容をとらえる。 平成30年度は、卸売市場流通において、場内卸売業者が果たしている役割と、マグロ流通における場外流通業者を中心とした流通構造について分析した。前者においては、川上と川下の紐帯としてコーディネート機能を発揮している実態について検討し、川上・川下業者との関係構築の仕組みを整理した。後者においては,これまでに実施したマグロの流通システムの変遷や現代的特質に関する分析を踏まえ、その中で存在感を増す場外の流通業者の観点からの分析を補強した。前年度までを含むこれらの分析をもって、卸売市場流通、市場外流通、その中での企業の取り組みや主体間関係についての実態を明らかにすることができた。そこでは、川上・川下をはじめとする各種の状況変化をとらえ、動態的に連携のあり方を変化させる企業がチャネル内でのポジションを変化させたり競争優位性を獲得する状況が見られ、それに伴う流通システムの変容が確認された。
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