研究課題/領域番号 |
15K07607
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻村 英之 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50303251)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 農家経済経営 / 農業経営 / 制度派 / 農村開発 / タンザニア / キリマンジャロ / フェアトレード / 産消提携 |
研究実績の概要 |
私的利益の最大化目標・行動のみならず、社会制度依拠の目標・行動にも焦点を当てる「制度派農業経営学」の分析枠組み(構築過程にあり、暫定的なもの)に基づいて、タンザニア・キリマンジャロ山中の農家経済経営の構造を解明した上で、経営分析を試みたところ、利益最大化の経営目標の下にある「男性産物」(コーヒー、仔牛など)については損失が生じている一方、「女性産物」(バナナ、牛乳など)は家計安全保障の経営目標をしっかり果たしている。 経営構造の変化はこの「男性産物」経営の不振、特に教育経費をコーヒーの販売収入で満たせなくなったことから生じ、過去に「女性産物」であったトウモロコシの「男性産物」化(バナナにもその傾向を確認できる)、農業の縮小・兼業化、街への出稼ぎ[農業における雇用や(拡大)家族の労働者の増加]が進んできた。ところがコーヒーのフェアトレード・プロジェクトにより、その販売収入が改善しつつあり(教育経費が確保されつつあり)、「男性産物」と「女性産物」のバランスがとれた過去の経営構造に戻りつつある。 以上の農家経済経営のレジリエンス(耐久力・復元力)の高さは、「女性産物」と相互扶助システムによる家計安全保障(キリマンジャロにおける伝統的社会保障システム)がしっかり機能しているからである。 今後、タンザニアとの比較のため、日本の農家経済経営を分析する際、多様な経営目標・行動の解明とともに、コメの販売収入の減少が経営構造に与える影響、経営構造の変化を促すその他の要因の解明、産消提携プロジェクトによる買い支えの意義と限界、新たな換金用農産物と自給用農産物の動向、レジリエンスと政府助成金の関係などに焦点を当てるのが望ましい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度(1年目)は、タンザニア・キリマンジャロ山中の農家経済経営構造の特質の解明と経営分析を研究目的としており、おおむね予定通り、そのための参与観察・聞き取り調査を、キリマンジャロ山の西斜面にあるルカニ村において実施した。しかし大雨・停電・断水が重なるという想定外の状況下で、調査課題の一部を終えられず、平成28年度(2年目)も短期(1週間程度)のキリマンジャロでの調査を予定している。 また3年間で、「制度派農業経営学」の分析枠組みの構築を完了したいが、それは前研究からの継続課題でもあり、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の2年間は、上記のタンザニア・キリマンジャロを分析事例として構築されつつある「制度派農業経営学」の分析枠組みを、日本(和歌山県みなべ町と山形県遊佐町)の農家経済経営構造の特質の解明と経営分析に適用し、その汎用性と限界を明示する。その上で、農家経済経営構造の特質と消費者の買い支え(フェアトレードや産消提携)の役割について、日本とタンザニアの比較分析を行う。 上記のように平成28年度も、短期のキリマンジャロにおける調査を予定しているが、中心は山形県遊佐町におけるフィールド調査(参与観察・聞き取り調査中心に年2回)となる。さらに平成29年度は、和歌山県みなべ町における調査(参与観察・聞き取り調査中心に年2回)に力を費やす。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内の業務や他の研究課題との関連で、タンザニア・キリマンジャロ山中において、当初の計画より短めの参与観察・聞き取り調査を行ったが、20年近く調査を継続している農村であるため、効率的な調査に努めれば、おおむね予定通りの成果が得られると考えていた。ところが大雨・停電・断水が重なるという、これまでの調査で経験のない、効率的調査を困難にする状況となり、調査課題の一部を終えられなかった。次年度以降はタンザニアでの調査を予定してなかったが、短期の調査のための使用額が残るように調整した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように、残された研究課題のための調査(ほぼフォローアップ目的の調査)を、キリマンジャロ山の西斜面にあるルカニ村において、9月短期間(1週間程度)、実施する予定である。
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